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死と話した人(1)
日期:2022-11-04 10:45  点击:292

死と話した人

小川未明


 (エー)は、(あき)(たんぼ)へやってきました。(なつ)時分(じぶん)には、小道(こみち)をふさいで、()(たか)()びていた、きびや、もろこしの()は、褐色(かっしょく)()れて、(くき)だけが、(しろ)さびの()たと(おも)われるほど、かさかさにひからびて、気味悪(きみわる)(ひか)っていました。そして、ところどころに、(あか)()のとうがらしが、(あたま)()げて、すきとおるような、(あお)(そら)をながめていたのです。
 もう、(きた)(ほう)から()いてくる(かぜ)は、なんとなく()ややかでした。あたりは、しんとして、これらの景色(けしき)は、ガラスに()かれた()のように、(おと)もなかったのでした。
 (かれ)は、なんの()なしに、(たんぼ)(なか)へはいってゆきますと、見知(みし)らぬ(おお)きな(おとこ)が、すぐ(まえ)()()っていました。
()なれない百(しょう)だな。」と(おも)って、(かれ)も、()()まって、その(かお)見上(みあ)げますと、赤銅色(しゃくどういろ)()()けて、角張(かくば)った(かお)は、なんとなく、残忍(ざんにん)(そう)をあらわして、あちらをにらんで、身動(みうご)きすらしなかった。(はな)(さき)がとがって、両眼(りょうがん)()ちくぼんで、()ぬぐいで()こうはち()きをして、きっと(くち)をむすんでいます。
 (かれ)は、多少(たしょう)無気味(ぶきみ)になりました。
「それにしても、鋳物(いもの)のように(うご)かないのはおかしいな。まさか、かかしではあるまい……。」
 こんなことを(かんが)えているうちに、それが、普通(ふつう)人間(にんげん)としては、ばかに(おお)きいということに()がついた。このとき、(エー)(むね)はどきどきしました。(まぼろし)()ているわけではあるまいと、自分(じぶん)(こころ)()うてみたのです。
「あ!」と、(かれ)は、(おも)わず(さけ)びをあげた。
「かま……?」
 そのかまは、(おお)きく、(するど)く、そして、三日月(みかづき)のように(ほそ)いのを、大男(おおおとこ)は、右手(みぎて)(にぎ)っていたからです。
()だ! ()だ!」(エー)は、(くち)のうちでささやきながら、(いそ)いで、きた(みち)をもどると、中途(ちゅうと)から、人家(じんか)()える(むら)をさして、()()したのであります。
       *   *   *   *   *
 沿海線(えんかいせん)沿()うて、レールが(はし)っていました。小高(こだか)(おか)(うえ)に、停車場(ていしゃじょう)があって、待合室(まちあいしつ)(かぜ)()きさらしになっています。
 (エー)は、(だん)()がって、待合室(まちあいしつ)にはいると、がらんとして、人影(ひとかげ)はなく、ただ一人(ひとり)(くろ)服装(ふくそう)をした外国(がいこく)のおばあさんが、ベンチに(こし)をおろして、(した)()いて、なにかしていました。
「どこの(くに)のおばあさんだろう。故国(ここく)は、(とお)いにちがいないが、いま、どんな気持(きも)ちで、ここにきて、なにをしているのだろうか?」と、そんなことを(おも)いながら、彼女(かのじょ)(おどろ)かさないように(ちか)づいたのでした。
 (くも)をもれて、おりおり、見渡(みわた)すかぎりの自然(しぜん)(うえ)へ、太陽(たいよう)光線(こうせん)は、虎斑(こはん)のようなしまめを(えが)いています。そして、どこともなくあちらの(ほう)から、(にぶ)(なみ)(おと)がきこえてきました。砂原(すなはら)(うえ)を、その(おと)は、ころげてきたのでした。
 ド、ド――
 ド、ド、ド。
「おばあさんは、なにをしているのだろう?」
 (かれ)は、(ちか)づいてみると、無数(むすう)(ちい)さなビーズを、ひざのあたり、(くろ)衣服(いふく)(うえ)にまいて、その一つ一つに(はり)(とお)しながら、それらの(あか)(しろ)(あお)()(むらさき)のビーズを(いと)につないでいました。
「なるほど、きれいなビーズだが、これも外国(がいこく)から()ってきたのかもしれん。なんという、あの(あお)(いろ)は、ペルシアのつぼのように、あくどく、()えた(いろ)をしていることだろう……。」
 (かれ)は、しばらく()って、ぴかぴか(ひか)(はり)(いと)につながれてゆくビーズの(いろ)にひきつけられていました。
 電線(でんせん)()く、(かぜ)(おと)
 (なみ)(おと)
 ド、ド――
 ド、ド、ド。


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