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縛られたあひる(2)
日期:2022-11-04 10:48  点击:260

 はたして、乞食(こじき)親子(おやこ)は、ぶなの()()もとで()()きました。(あお)(けむり)が、(みき)(つた)い、小枝(こえだ)()けて、()えた、よくふき(きよ)めたガラス()りのような(そら)(のぼ)ってゆきました。このごろ、ぶなの()は、(はる)(ちか)づいたせいか、(そら)()ると、去年(きょねん)(なつ)()んできたかわらひわのことを(おも)()すのでした。かわらひわは、毎日(まいにち)のように、どこからか()んできて、(えだ)()まって、いい(こえ)でさえずりをきかせたり、また、(とお)(たび)(はなし)などをきかせてくれたのでした。そして、(わか)れる時分(じぶん)に、さも名残惜(なごりお)しそうにして、
「また、来年(らいねん)若葉(わかば)のころには、きっときますから、どうぞ、みなさんお達者(たっしゃ)でいてください。」といったのでありました。
(ぼん)のぶなの()は、そのかわらひわのいったことを(おも)()すにつけ、こんな乞食(こじき)が、ここへやってきたのでは、たとえ自分(じぶん)たちが、無事(ぶじ)でいても、かわらひわは、おそらく、二()とここへはきて()まることもあるまいと(かんが)えたのでありました。それは、なんという(なさ)けない、また(かな)しいことだったでしょう。()(しず)んでから、その()(つの)()した、北風(きたかぜ)に、()は、昨日(きのう)にもまして(かな)しい(こえ)(うた)をうたったのであります。
二、三日後(にちご)の、()(がた)のことでした。だいぶ(あたた)かになったので、(みず)(なか)(さかな)が、しきりと()(えが)いて(およ)いでいました。このとき、乞食(こじき)()は、(まち)(ほう)から、一()のあひるを()いて(かえ)ってきました。それより、一足(ひとあし)(さき)小舎(こや)へもどっていた父親(ちちおや)は、それを()て、
「どこでさらってきた?」と、たずねました。
(いぬ)がくわえてきたのを()(はら)って、()らえてきたのだよ、どこにも(きず)がついていないようだ。」と、子供(こども)は、あひるを大事(だいじ)そうに両腕(りょううで)(あいだ)()れて、いつまでも(はな)そうとはしませんでした。
()いて、()べたら、うまかろう。」と、父親(ちちおや)は、じっと、ふるえている(はね)紫色(むらさきいろ)をした(とり)()つめました。
(おれ)はいやだ、(ころ)すなんて。」と、子供(こども)は、白目(しろめ)()して、父親(ちちおや)(かお)をにらみました。
「どうする()だ?」と、父親(ちちおや)は、そっけなく()いました。
「おら、()っておくのだ。」
「ばかめ、そんなもの()っておいてみろ、おまえが(ぬす)んできたことになるぞ。」
子供(こども)は、(かんが)えていましたが、
明日(あした)(ころ)そうよ。今夜(こんや)だけ、(かわ)(なか)へ、一晩(ひとばん)(あし)(しば)って(はな)しておくから、それならいいだろう?」
「かってにしろよ。」
父親(ちちおや)は、無理(むり)今夜(こんや)あひるを(ころ)すとはいいませんでした。せめて、一晩(ひとばん)は、子供(こども)自由(じゆう)にさせておいてやろうと(おも)いました。
「しっかり(あし)(しば)っておくだぞ、さあ、この(なわ)でな。」といって、父親(ちちおや)は、()ごろなじょうぶそうな(なわ)()()して、子供(こども)(あし)もとへ()げました。
子供(こども)は、だまって、(なわ)(ひろ)って、あひるの(あし)(むす)んでいました。もう(みず)(うえ)は、ほの(じろ)(よる)(そら)(いろ)(うつ)しているだけで、(みず)ぎわに()えているやぶの姿(すがた)がわからないほど、(くら)くなっていました。子供(こども)は、しばらく、その(やみ)(すか)かして、(みず)(おもて)がさざなみをたて、あちらこちら(およ)いでいる、あひるのようすをながめていましたが、()(にぎ)っている、(なわ)(はし)をいばらの()()につなぐと、さも満足(まんぞく)そうに、小舎(こや)(なか)へもどっていきました。それからのこと、(くら)がりで(およ)いでいたあひるは、(あし)についた(なわ)(おも)みで、身動(みうご)きができなくなったのか、(きし)()がって、やぶ(かげ)にうずくまってしまいました。
今夜(こんや)も、ぶなの()は、(かな)しい(うた)をうたいつづけました。たぶん、あひるは、何事(なにごと)(ゆめ)のようで、意外(いがい)であった、この一(にち)のでき(ごと)(おも)()していたのでしょう、()をぱちくりさして、(ふと)いくちばしで、(きず)のついているらしい、(つばさ)(した)のあたりをなめながら、()にしていました。そのうちに、つい自分(じぶん)が、どこにどうしているということも(わす)れて、あの居心地(いごこち)のよかった古巣(ふるす)が、この付近(ふきん)にでもあると(おも)ったのか、(きゅう)(こい)しくなって(さが)しはじめました。しかし、それは、ますます(かれ)(からだ)窮地(きゅうち)(おとしい)れるものだということに()づかなかったのです。


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10/03 10:42