翌日、さっそくその
腕時計をして、
学校へいきました。
「いいのを
君買ったね。」と、いちばんにそれを
見つけて、
駆け
寄ったのは
小谷でありました。
「
僕のと、
同じようだけど、ちっとちがっているね。」と、
小谷は、
自分の
腕時計と
見くらべていました。
「ははあ、
君のと三
分ちがっているが、どっちが
正しいんだかな。」と、
正二くんが、いいました。
「それは、
僕のが
正しいんだとも、
昨夜ラジオに
合わしたのだもの。」と、
小谷が、
答えました。
「
僕も
合わしたんだよ。」
二人は、そろって
教員室の
前へいって、
時計を
見ると、どちらもちがっていました。それでいずれが
正しいのか、わかりませんでした。
正二くんは、
学校で
撃剣をして、
家へ
帰りました。
見ると、
時計が、
止まっていました。
「おかしいな。お
母さん、
僕の
時計が
止まっています。
撃剣をすると
止まるもんですか。」
「そんなことはありません。ねじがゆるんだのでしょう。」
「あ、そうか。」
正二くんは、ねじをかけて、
外へ
遊びに
出ました。そして、
友だちとボールを
投げていたのです。ふと、
時計を
見ると、また
針が
止まっていました。
「だめだ、こんな
時計は、
見かけだけで……。」と、
正二くんは、なにかしらん
腹立たしくなりました。
家へ
帰って、お
母さんに
告げると、
「
買ったばかりですから、
店へ
持っていってなおさせてあげます。」と、おっしゃいました。
正二くんは、
見たところ
精巧そうな
時計が、ちっとも
精巧でないので、がっかりしてしまいました。
学校へいって、このことを
友だちに
話すと、
「
僕の
時計も、すこし
運動すると
止まるんだよ。」と、
小谷が、いいました。
夕ご
飯のときに、その
話が
出ると、
兄さんは、
笑って、
「
役にも
立たぬものを、
体裁だけでごまかすなんて、ほんとうにわるいことだな。」と、いわれたのでした。
「なんのための
時計だか、わかりませんね。」と、
正二が、いいました。
「いままでのような
世の
中では、しかたがない。
見かけはどんなでも、ほんとうに
役に
立つものを
造らなければ、なんの
値打ちもないのだ。
人間も
同じことだぞ。」と、お
父さんが、おっしゃいました。
それは、
体操の
時間でした。
先生が、ポケットから、
大きな
時計を
出して、
時間を
見ていられました。
正二は、
自分の
大きな
時計によく
似ているなと
思って、
見ていました。
「
先生の
時計は、
大きいなあ。」と、
笑ったものがあります。
先生は、こちらを
向いて、
「
君たちの
時計は、
見かけばかりで、すこし
運動すると
止まるのだろう。
形などはどうでもいい。
機械は、このほうがずっといいんだ。」と、おっしゃいました。
その
明くる
日から、
正二くんは、お
母さんにあずけてあった
時計を
下げて、
平気で
学校へいくようになりました。
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