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少女がこなかったら(1)
日期:2022-11-07 23:45  点击:245

少女がこなかったら

小川未明


さむい、くらい、ばんであります。かぜおとが、さびしくかれました。ちょうど、真夜中まよなかごろでありましょう。
コロ、コロ、といって、あちらの往来おうらいをすぎるくるまおとが、太郎たろうのまくらもとにこえてきました。もう、だいぶねあきていましたので、かれはふとをあけて、そのくるまおとに、みみをすましたのでした。
「いま時分じぶん、あんなくるまいてゆくのは、どんな人間にんげんだろう?」
こう、かれかんがえました。すると、それはおそろしいひとのようにもおもわれました。というのは、そのおとは、いま、はじめてくるまおとではなかったのです。
まだ、自分じぶんちいさかったとき、夜中よなかきてなにかむずかると、やさしいははは、
「あのおとは、なんだろう……。だまってだまって、ああ、こわい、ああ、こわい。」といって、しっかりと自分じぶんきすくめられたのを、太郎たろうは、昨日きのうのことのように、わすれなかったのであります。
それからのちかれは、たびたび真夜中まよなかごろに、このくるまおととこなかいたことがありましたが、いつも、それは、人間にんげんとはおもわれないような、おそろしい姿すがたをしたものが、まったく人通ひとどおりのえた往来おうらいうえを、くるまいてゆくさまえがいたのでした。
このばんも、かれは、やはりそんなような空想くうそうにふけったのです。
くもれめから、すごいほしひかりが、きらきらとかがやいている。しろしもは、電信柱でんしんばしらに、屋根やねうえっている。さむ北風きたかぜが、あのようにおとをたててゆく。かわいたみちうえには、れたがころがって、人通ひとどおりもない、しんとした往来おうらいを、おそろしいおとこが、あのように、だまってくるまいてゆくのだろう……。」
かれは、おぼえず、夜具やぐのえりに、かおめてちいさくなりました。
*   *   *   *   *
太郎たろううちへ、三、四かげつまえ田舎いなかからきた女中じょちゅうがありました。彼女かのじょは、まだ、十六、七になったばかりです。
この、あまりさむいので、ふとをさますと、ちょうどこのくるまおとを、彼女かのじょいたのでありました。
「おさよ、おまえは、よるをさますことがあるかい。」と、うちひとに、たずねられましたときに、
「いいえ。」と、かおをあかくしてこたえたことがありました。それほど、昼間ひるまはたらくので、よるつかれてよくやすむのでした。それですから、めったにくるまおといたこともなかったのであったが、今夜こんや、ふとくるまおときますと、つぎからつぎといろいろのことがおもされて、彼女かのじょはしばらくとこなかで、あたまをまくらにつけて、空想くうそうあとったのでありました。
おさよは、田舎いなかにいる時分じぶんのことをおもったのです。
おじいさんは、くるまに、いも大根だいこんをのせて、まだくらいうちから、提燈ちょうちんをつけて、それをげて、むらから四ばかりへだたったまちいてゆきました。
うちのものも、いっしょにきて、まちへゆかれるおじいさんを見送おくったのです。むらから、こうして、くるまいて、てゆくものは、ほかにも幾人いくにんかありました。炭俵すみだわらをつけてゆくもの、またまきのようなものをつけてゆくもの、それらのくるまのわだちのおとが、あとになり、さきになりして、くらいさびしいみちをあちらにえていったのであります。
「おさよ、今日きょうは、かえりになにかってきてやるぞ。」と、てゆくとき、おじいさんにこういわれると、おじいさんのかえりが、どおしくてたまらなかったのでした。

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