少年の日二景(2)
日期:2022-11-07 23:49 点击:313
伸びるもの
良ちゃんは、いま
中学の一
年生です。ある
日学校から
帰ると、お
母さんに
向かって、
「きょう
山田にあったよ。」といいました。
「どうしていらっしゃるの。」
「
昼間は、
会社の
給仕をして、
夜学校へいっているといっていた。」
「
感心ですね。」
お
母さんは、
過ぎ
去った
日のことを
思い
出していられました。それはまだ
良ちゃんが、
小学二
年生ごろのことであります。
事変前で、
町には、お
菓子もいろいろあれば、
卵などもたくさんありました。
遠足の
日がきまって、いよいよその
前の
晩になると、おそらく
他の
子供もそうであったように、
良ちゃんは
大騒ぎです。
「お
母さん、
明日のお
弁当は、おすしにしてね。」
「ええ、してあげますよ。それとなにを
持っていきますか。」と、お
母さんは、さも
楽しそうにしている
良ちゃんに
向かって、お
問いになりました。
「ゆであずきいけない?」
「そんなものを
持っていく
人はないでしょう。」
「じゃ、チョコレートとキャラメルとビスケットね。」
「そんなに
持っていくのですか。」
「みんな
僕、
食べるんだよ。」
「
果物はいいのですか。」
「なつみかんとりんご。」
「
良ちゃん、
遠足は、
食べにいくところではありませんよ。」
「お
母さん、
早く
買いにいきましょう。」と、
良ちゃんは
催促しました。
「お
仕事がすんだら、つれていってあげます。」
新緑の
色は、だんだん
濃くなって、どこの
丘にも
赤いつつじの
花が
盛りでした。また
林には、
小鳥が
鳴いていました。
良ちゃんたちの
遠足は、そうした
丘があり、
林があり、
流れがあり、
池がある、そして
電車に
乗っていける、
公園であったのです。
良ちゃんは、まだ、まったく
暮れきらぬ
外へ
出て
遊んでいました。
夜の
空には、
金色の
星が
輝いていました。
良ちゃんは、
往来の
上に
立って、じっとその
星の
光をながめていました。
「あの
星は、
明日僕たちのいく、
公園の
森や
林の[#「
林の」はママ]
照らしているのだろう。」
そう
思うと、その
星がなつかしく、また
公園の
森や
林を[#「
林を」はママ]あるところは、たいへん
遠いところのような、またおもしろい
場所のような
気がして、なんとなく
胸がおどるのでありました。
「お
母さん、
早くいかないの。」と、
良ちゃんは、お
家の
中をのぞいて、いいました。
「ええ、もうすぐですよ。」
お
母さんは、やっと
夕ご
飯の
後片付づけが
終わって、
良ちゃんをつれて、
市場へいかれました。
そこには、
同じ
年ごろの
子供たちが、やはり
明日の
遠足に
持っていくものを
買っているのでありましょう、お
母さんにつれられてきたもの、また、お
姉さんにつれられてきたもの、
幾人となくおりました。
「さあ、
好きなものをお
買いなさい。」と、お
菓子屋の
店先で、どこかのお
母さんが、やさしく
子供にいっていられるのもあります。
「あの
子、
良ちゃんのお
友だちでない。」
「
僕、
知らないよ。きっと、ほかの
組だろう。」
良ちゃんは、りんごも二つといえば、みかんも二つといって、お
母さんをおどろかせました。
家へ
帰ってから、お
菓子や、
果物をランドセルにつめるとき、そばで
見ていたお
姉さんが、
「
良ちゃん、そんなに
持っていってどうするの?
良ちゃんは
食いしんぼうといって
笑われてよ。」といわれました。
学校で、
良ちゃんのかたわらに、
紙や、
鉛筆を
先生からもらっている
子供がいました。その
子のお
父さんは、
病気で
臥ており、
母親は、
小さな
妹をつれて、
毎日車を
引きながら、くずを
買いに、
出かけているときいていました。
それで、
遠足のときには、
良ちゃんは、
二人分のお
菓子と
果物を
持っていこうと
思ったのでした。
そのことが、
良ちゃんの
口から、お
母さんや、お
姉さんにわかると、
「はじめからいえば、お
母さんは、なんともいわなかったのですよ。」と、お
母さんは、いわれました。
「
僕、そんな
友だちのこと、いいたくなかったんだもの。」
「なんというお
子さん。」と、お
姉さんが、きかれました。
「
山田って、いい
子なんだよ。」と、
良ちゃんは、
答えました。
二人は、その
後学校で、
仲のいいお
友だちとなったが、そのときのことが、いまお
母さんにも、
良ちゃんにも
思い
出されたのです。そして、なお
残念に
思われたのは、あの
遠足の
日に
山田がついにこなかったことでありました。
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