ちょうど、このとき、あちらから、かすんだ往来 をまだ若 い薬売 りがやってきました。二、三年 前 まで、おじいさんが、薬 を売 りにやってきたのでしたが、このごろは隠居 でもしたのか、まだ若 い男 が、旅 から、わざわざこの村 の方 までやってきて、薬 を売 るのでありました。
「先祖代々 の家伝 、いっさいの妙薬 。」といって、歩 いてきました。
やがて、若 い薬売 りは、箱 を負 って、すげがさを目深 にかぶって、草鞋 をはいて、こちらにきかかりますと、女 と子供 が、なにかたがいにいいあっているようすでありましたから思 わず歩 みをとめました。
「薬屋 さん、いっさいの妙薬 なら、このすいかの傷 がなおされるだろう。」と、女 は、あざ笑 っていいました。
若 い薬売 りは、いったい何事 が起 こったのだろうと思 って、にわかに、返事 ができませんでした。すると、小僧 は、どもりながら、今日 のことをいっさい語 って聞 かせたのです。
この話 を聞 いた薬売 りは、静 かに顔 をあげて、
「奥 さん、それは、あなたのほうが無理 です。」といいました。
女 は、たいそう怒 りました。
「なにが無理 か。おまえこそいいかげんなうそをいって、人 をごまかそうと思 っているじゃないか。いっさいの妙薬 なら、このすいかの傷 をなおしてごらん。」といいました。
若 い薬売 りは、しばらく黙 っていましたが、
「奥 さん、なおしてみせます。」といって、脊 に負 っている箱 をおろしました。そして、中 から金色 の薬 をとり出 して、その薬 を水 で溶 かして、すいかの傷口 に塗 りました。太陽 の暖 かな光 のために、薬 は流 れて、大 きなすいかを金色 に染 めてしまいました。
小僧 は、あっけにとられて見 ていました。すると、不思議 にすいかの傷口 は、ふさがってわからなくなってしまったのです。
女 は、これを見 て、言葉 が出 なく、ただぼんやりしていました。
「このすいかを食 べた人 は長生 きします。今晩 、このすいかを夜店 に持 って出 ると、きっと値 がよく売 れますよ。」と、薬売 りはいいました。そして、若 い薬売 りは、あちらにいってしまいました。
薬売 りも八百屋 の小僧 もいなくなってから、女 は、ほんとうに不思議 なことがあるものだと考 えました。
「あの薬売 りは、いつもくる薬売 りと顔 がちがっていたようだ。今日 の薬売 りは、神 さまか仏 さまにちがいない。それでなくて、どうして、あのすいかの傷 がなおったろう。たしかに、私 の目 には、傷口 がふさがったように思 われた。」と、ひとり女 はつぶやきました。
それから、女 は、薬 を塗 って、すいかの傷口 がなおるものかと、二、三人 の人々 にたずねますと、みんな大 きな口 を開 けて、
「おまえは、きつねにばかされているのではないか。」といって笑 いました。それで、女 はますます驚 いてしまいました。
女 は、日 の暮 れるのを待 っていました。やがて、晩方 になると、町 へいってみました。もう八百屋 の小僧 が夜店 を出 していました。そして、ちょうど、ひげの白 い老人 が、その前 にうずくまって、例 の金色 のすいかを取 り上 げ、カンテラの火 に照 らしてながめていました。
女 は、この有 り様 を見 ると、そばへ寄 ってきて、
「小僧 さん、このすいかを私 に売 ってください。すこし子細 がありますから。」といって、銭 を払 って、おじいさんの手 から奪 うようにして持 ってゆきました。
空 は、よく晴 れて、きれいな星 の光 が、幾 つもこの町 を照 らしていました。
女 は、家 に帰 って、ランプの下 で、もう一度 よくすいかを見 ました。しかし、どうしたことか傷口 がわかりませんでした。そのとき、家 じゅうのものがみんな出 てきて、ランプの下 に集 まりました。そして、女 の話 をきいて、すいかをめいめいが手 にとってながめて、不思議 がりました。
「このすいかを切 ってみなさい。」と、おばあさんがいわれました。
女 の亭主 も、おじいさんも、叔母 さんも、それがいいといったので、女 は、さっそく庖丁 を持 ってきて、真 っ二つにすいかを切 ってみました。すると、その中 は、真 っ赤 であったばかりでなく、血 がだくだくと切 り口 から流 れたのです。
女 は、驚 いて、目 をみはりました。
「このすいかは、生 きていたのだ。」と、おばあさんがいわれました。
「あまり、おまえが邪慳 だから、見 せしめのために、神 さまがこうしてお見 せになったのだ。」と、おじいさんはいわれました。
円 い、みずみずしい月 が、ちょうど窓 からのぞいていました。それから、女 は、やさしい、いい人 になったということであります。
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それから、
「おまえは、きつねにばかされているのではないか。」といって
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「このすいかを
「このすいかは、
「あまり、おまえが