白い雲(1)
日期:2022-11-14 00:00 点击:228
白い雲
小川未明
一
みんなは、なにかすてきに、おもしろいことがないかと、
思っているのです。
敏ちゃんも、もとより、その
一人でありました。
往来で、
義ちゃんや、
武ちゃんや、かつ
子さんたちが、
集まって、なにか
見て
笑っています。
「なんだろう?」と、
敏ちゃんは、
走ってゆきました。
義ちゃんが、
真っ
黒な
砂鉄を
紙の
上にのせて、
両手で
持っていると、
武ちゃんが、
磁石で、
紙の
裏を
摩っています。すると、
砂鉄がむくむくと
虫のはうように、
磁石のいく
方について
動くのでした。
「おもしろいのね。」
「
不思議だろう。」と、
武ちゃんが、
自分もそれに
見とれて
頭を
傾けていました。
「
僕、たくさん
砂鉄を
取ったのだけれど、
洗ったら、これんばかしになったのだよ。」
義ちゃんは、
砂鉄の
入っているびんをポケットから
出して、
見せていました。
これを
見ると
敏ちゃんは、にやりと
笑いました。
自分も
大きな
磁石を
家に
持っていると
思ったからです。それは、いつかお
隣の
兄さんから、もらったものです。もう
赤く
塗ったところがだいぶはげていたけれど、もとは、いい
磁石だったのです。
明くる
日、
敏ちゃんは、
学校へいくと、
休みの
時間に、
運動場の
砂場で、
小山といっしょに
砂鉄を
取るのに
夢中になっていました。
小山の
磁石は、
敏ちゃんのより、
形は
小さいけれど、
赤いところも
全部ついていて、
吸いつける
力は
強かったのでした。
敏ちゃんの
磁石は、
大きいけれど
力が
弱かったのです。
「
君、どれだけ?」と、
敏ちゃんは、
砂鉄を
取るのに、
負けるような
気がして、きくと、
小山は、
「まだ、こればかしさ。」といって、しわくちゃになった、どろだらけの
紙を
開いて
見せました。
「たくさん
取れたね。
僕の
磁石は、だめだ。」と、
敏ちゃんは、
自分の
磁石が、ただ
大きいばかりだというのが、なんとなく
歯がゆくなりました。
「それに、
電気をかけると
強くなるのだぜ。」と、
小山が
教えました。
「
電気?」
敏ちゃんは、そのことを、はじめて
知ったのです。さっきから、この
不思議な
力は、いったいどこからくるものかということを
考えていたのでした。
大きくなれば、わかるだろう。けれど、あの
太陽をだれが
造ったのかわからないうちは、あるいは、この
力もどこから
生まれるかということはわからないのかもしれないと、
思いながら、
茫然として、
青空を
仰いだのでした。
「
君っ、ベルが
鳴ってしまったんだ!」
こう
叫ぶと、
小山は、あわててはね
上がりました。
敏ちゃんも、
驚いて、
運動場に
人がいないのに
気づくと、
急いで
小山の
後を
追って、
教室へ
駆けつけたのです。
先生は、
後れてきた
二人を、じっとごらんになりましたが、
黙っていらっしゃいました。
敏ちゃんは、お
座についたけれど、しばらく
心臓がどきどきとしていました。
分享到: