白い雲(3)
日期:2022-11-14 00:02 点击:267
三
地理の
時間でした。
小山は、
夜店で
買ったといって、
丹下左膳と
侍の
小さな
人形を二つ三つ、
紙に
載せて、
下から
磁石を
操って
踊らせていました。
磁石の
動かし
具合で、
人形どうしは、たちまちチャンバラをはじめるのです。
小山は、
先生のお
話など、
耳に
入れようともしないのです。
「やあ、やあ。」と、
先生には
聞こえないように、
掛け
声をかけて、
丹下左膳と
侍に
立ちまわりをさせていました。
場所の
近いものは、
笑いを
殺して
見ていました。
敏ちゃんは、
先生にわかると
思ったから、
気が
気でなかったので、
「
見つかるよ。」と、
小山に、
注意をしました。
しかし、もうこのときは、
遅かったのです。
先生は、
小山をにらんでいらっしゃいました。ふいに、
先生がお
黙りになったので、
小山が、
顔を
上げてみると、ほとんど、いっしょに、
「
小山、さっきからおまえはなにをしている? わかっているかね、
塩原温泉はどこにあるか、いってごらん。」と、
先生は、
小山をお
指しになりました。
小山は、
片手に、
磁石と
紙を
握って、
机の
下へ
隠すようにして、
立ち
上がりました。
「
栃木県にあります。」
「じゃ、
群馬県にある、
有名な
温泉場は?」と、
先生は、お
問いになりました。
今度は、よく
聞いていなかったので、
小山は、ちょっと
返事ができませんでした。このとき、二、三
人席をへだてて、
平常からおもしろいことをいって、
人を
笑わせる
武田が、
小さい
声で、
「どっこいしょ。」といいました。
これをきいたものが、
笑い
出すと、
先生は、
怖ろしい
目を
武田の
方へ
向けて、おにらみになりました。とうとう
我慢がしきれなくなったというふうで、
「
小山と
武田は、ここへ
出ろ!」と、
先生は、どなられたのです。
教室のうちがしんとしました。
二人が、ぐずぐずしていると、
先生は、まず
小山の
席へいらして、
「いま、やっていたものをお
見せ。」と、お
座から、
引きずり
出されました。
武田は、
先生の
権幕に
抗しがたいと
知ると、
自分から
席を
出て、
先生のいられる
教壇の
前へきて
立ちました。
先生は、
「
武田、おまえは、さっきの
唄をうたって、
小山は、ここでみんなに
人形を
踊らしてごらん。」と、おっしゃいました。
小山は、さすがに
耳の
根まで
赤くして、うつ
向いていましたが、
武田はしかられても、
頭をかきながら
笑っていました。
このとき、
敏ちゃんは、
一人だけ、
窓の
外で、つばめが
自由に、
青い
空を
飛びまわっているのを、じっと
見守って
考えていたのであります。
「このつぎから、
教室へこんなものを
持って
入ったら
許さないぞ。」と、
時間が
終わったときに、
先生は、
小山におっしゃいました。そして、それまでそこに
立たされていた
二人は、はじめて
許されたのでした。
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