四
敏ちゃんの
大きな
磁石は、ラジオ
屋のおじさんから、
電気をかけてもらって、ばかに
力が
強くなりました。
学校の
帰りに、
往来の
上で、
義ちゃんや
武ちゃんは、
敏ちゃんをはさんで、
敏ちゃんの
大きな
磁石に
自分たちの
小さな
磁石を
押しつけて、
電力を
分けてもらっていたのです。
「いいんだねえ、
敏ちゃん、すこしばかり
分けてもらっても、
敏ちゃんのほうは、ずっと
強いんだものね。」と、
武ちゃんが、
気がねをしながらいいました。
「
僕も、ラジオ
屋のおじさんにお
願いして
強くしてもらおうかな。」と、
義ちゃんがいいました。
「いいよ、
僕のは、
赤いところがはげているのだから、どうせ
使わなくても、ひとりでに
電気がなくなるのだもの。」と、
敏ちゃんは、
今度、お
母さんに、
赤いところのはっきりとした、
新しい
磁石を
買ってもらうことを
頭に
描いていました。そこへ、
同じ
組の
西山がきかかりました。
「
君、それよりか、
鉱石を
取りにいかない? そのほうが、よほどおもしろいぜ。
磁鉄鉱も、
黄銅鉱も、
金もあるのだよ。」と、
郊外の
方から
通学する
西山が、いいました。
「ほんとうかい、どこに?」と、
義ちゃんと、
敏ちゃんは、
磁石のことを
忘れたように、
目を
輝かしました。
「いま、
河の
工事をして、
割った
石塊がたくさんあるのだ。さがせば、いろんな
石が
見つかるよ。
金は、
紫色をしているだろう。ちか、ちか
光る
黄銅鉱と、それに、
方解石が、いちばん
多い。
方解石は、たくさんあるよ。」
それでなくてさえ、みんなは、なにか
珍しい、
愉快なことはないかと
思っていた
矢先ですから、それをきくと、
飛び
立つばかりにうれしかったのです。
西山を
往来に
待たしておいて、かばんを
家へ
投げ
込むと、すぐに、
敏ちゃんも、
武ちゃんも、
義ちゃんも、
駆け
出してきました。その
姿を
見つけると、
「
私たちも、つれていってね。」
原っぱに
遊んでいた、かつ
子さんと、よし
子さんが、みんなの
後を
追ってきました。
彼らは、
電車道を
横切って、
緑の
樹がたくさん
目に
入る、
静かな、せみの
鳴き
声のする、
涼しい
道を
急いだのであります。
西山は、一
同を
野中の
河普請場へ
案内しました。
工事はなかなかの
大仕掛けでした。
河水をふさいで、
工夫たちは、
河底をさらっていました。
細いレールが、
岸に
添って、
長く、
長くつづいています。その
行方は
光った
草の
葉の
中に
没していました。
工事場の
付近には、
石の
破片や、
小砂利や、
材木などが
積んでありました。また、ほかの
工夫たちは、
重い
鉄槌で、
材木を
川の
中へ
打ち
込んでいます。
太い
繩で、
鉄槌を
引き
上げて、
打ち
落とすたびに、トーン、トーンというめり
込むような
響きが、あたりの
空気を
震動して、
遠くへ
木霊していました。ときどき、
思い
出したように、ゴーッ、ゴーッと
叫びを
上げて、トロッコが
幾台となくつづいて、
小石を
満載してきました。これを
工事場へ
開けると、ふたたび、あちらへ
引き
返していくのでした。
「あっちに、まだ
割った
石がたくさん
積んであるのだよ。」
西山は、
先頭に
立って、
草原の
方へ
突進しました。なるほど、トロッコの
通るレールから、そう
離れていないが、
工事場からはかなり
距たった
草原の
中に、
石の
破片が、
白い
小山のごとく
積み
重ねてありました。
知らない
子供が二、三
人、
先にいって、
熱心に一つ、一つ、
石をより
分けている
姿が
見えたのです。
「
石を
取ってもしかられない?」と、
敏ちゃんが、ききました。
「この
大きいのは、一つだって
重くて
持ってはいかれないさ。ちっとばかり、
欠く
分なら、かまわないだろう。」と、
西山が、
答えました。
「しかられないかなあ。」と、
義ちゃんは、
考えながら、トロッコの
通るたびに、
線路の
方を
見ました。
「
怒ったら、
逃げればいいや。」
西山は、そういって、もう
石の
丘へ
登っていました。
「ほら、これが
方解石なんだぜ。」
白い
石の
破片に、
他の
色とまじって、ひときわ
白く
光沢を
放ち、
塩などの
結晶のように
見えるのです。
方解石だけは、
割っても、
割っても、四
角形に
割れる
特徴を
有していました。
「ちょっと、
水晶みたいだね。」と、
武ちゃんが、いいました。
知らない
子供たちまで、
西山のそばに
寄ってきました。その
子供たちの
手にも、なにか
石が
握られています。
「これ
金でない?」と、その
一人が、
自分の
持っている、
石の
破片を
示しました。
「どれ、そいつは
磁鉄鉱らしいな。
金は、もっとうす
紫色を
帯びているよ。」と、
西山が、いいました。
「この、ちかちか
光るところだけは、
銅なんだろう?」と、
義ちゃんが、のぞきました。
「そうらしい。」
「
僕、
方解石を
見つけた!」
見ると、
敏ちゃんは、
石で、
石を
打って、その
部分だけを
取ろうとしています。
「
君、
方解石って、どんなの?」
知らない
子供の
一人が、よく
知ろうとして、
敏ちゃんにききました。
敏ちゃんが、
教えていると、ちょうど、ゴーッ、ゴーッと
風を
切って、レールの
上を
走ってくる、トロッコの
音がしました。
「おい、がきども、いたずらするなあ。」と、そのトロッコは、
通り
過ぎるときに、わめいてゆきました。
二人の
労働者が、
空のトロッコに
乗っていました。
元気のいい
若者でした。
後からも、
後からも、いくつかのトロッコはつづいてゆきましたが、
中には、こちらを
見て、
親しげに
笑っていく
男もありました。
「さっきの
奴、
生意気だね。」といったのは、
武ちゃんです。
「もし、あいつが
飛んできたら、
僕たち
逃げようか。」
「
逃げなくたっていいさ。」
「そうしたら、おもしろいな。なんで
僕たち、
捕まるもんか。」
「
石を
投げてやろうや。」
「かっちゃんや、よし
子さんは、
早くあっちへいっておいでよ。」と、
義ちゃんが、いいました。
「
私、つかまったら、あやまるわ。」と、よし
子さんが、いいました。
「いやよ。だって、
私たちなにもしないんでしょう、
見ているだけですもの。」と、かつ
子さんが、いいました。
「それだから、
女なんか、こなければいいんだ。」と、
武ちゃんが、
怒りました。
「もう、いいよ。」
「それよりか、
早く、いいのを
見つけようや。」
敏ちゃんは、
真っ
赤な
顔をして、
石を
石に
打ちつけていました。
しばらく、みんなが、
石を
割るのに
夢中だったのです。
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