五
突然「ブーウ。」と、
長いうなり
声をたて、トラックが、
原っぱの
中へ
入ってきました。
石の
破片を
運んできたのです。
「きたっ!」といって、みんなは、
逃げ
出すような
身構えをしたけれど、もう
逃げ
出すすきがなかった。はや、トラックは、
目の
前にきて
止まりました。
止まるといっしょに、ぱっと三
人の
男が、
自動車の
上から
飛び
降りました。そのうち、
一人の
男が、
敏ちゃんのそばへいって、
手もとをのぞき
込んで、
「どんな
石を
探しているんだね。」と、ききました。そのやさしみのある
質問に、みんなは、ちょっと
意外な
感じがしました。
「
方解石を
取っていたのだ。」
敏ちゃんは、
正直に
答えたのです。
「
学校の
理科で、
習っているんだな。」と、その
男は
日に
焼けた
黒い
顔に、
白い
歯を
見せて
笑っていました。
「おじさん、この
石はどこからくるの?」と、
敏ちゃんが、ききました。
「
埼玉や、
茨城の
方からくるんだ。
大きな
石を
機械にかけて、こんなに
細かにして、
電車道や、
河川工事に
使うのさ。」と、その
男は、
答えました。
これをきくと、
敏ちゃんは、なんとなく
石の
故郷がなつかしい
気がして、
思わず、
大空の
果てをながめたのです。
先のとがった
森影が、まぶしい
日の
光に
霞んでいて、
遠くの
地平線には、
白い
雲が
頭をもたげていました。
三
人のおじさんたちは、
石をそこへ
下ろすと、またトラックを
運転して、
原っぱの
中をどこへとなく
消えてしまったのです。
「あのおじさんたちは、いい
人たちだな。」
「この
石は、
遠いところからきたのだよ。」
「トンネルを
掘るときは、ダイナマイトで、
岩を
砕くのだってね。」
「ああ、ド、ドーン! すごいだろうな。」
「いまのおじさんは、ラジオのおじさんに
似ているだろう。」
「ちがうわ。」
「
似ていたよ。」
「そう
思うのは、
敏ちゃんだけよ。」
石山の
周囲で、こんなことをいっていると、また、ゴーッ、ゴーッと、トロッコが、
風を
切って
走ってくる
音がしました。ここからは、
草の
間に
見えつ、
隠れつしている
細いレールは、
頼りなげな二
本の
火ばしのようにしか
見えなかったのです。
小砂利をいっぱい
積んだ
箱の
上に、
先刻のどなった、
元気な
若者が
突っ
立っていました。
敏ちゃんは、
握っていた
石を
手から
放して、その
方を
振り
向いていると、
男は、なにかいいたげなようすをして、こちらをにらんでいたが、ちょうどカーブへさしかかった
途端に、
調子づいているトロッコは、はっと
若者が
気づいたときには、もう
脱線して、
止まってしまったのでした。だが、それを
知らずに、
後から、
後から、ほかのトロッコは、
唄など
歌いながら、
走ってくるのです。
あわてて、
若者は
両手を
高く
上げて
叫びました。
「だっせんだぞう。」
すると、いくつかのトロッコは、ぴたりと
止まってしまいました。
「あいつ、
生意気だから
罰が
当たったんだね。」と、
義ちゃんが、いいました。
若者は、まったく
子供たちの
方に
気を
取られて、
自身の
注意を
怠ったためでした。そこで、いっしょうけんめいになって、
脱線した
車を
直そうとしたけれど、とうてい
二人の
力ではだめでありました。しかし、
仲間はそれと
悟ると、すぐに
車から
飛び
降りて、トロッコの
脱線した
場所へ
集まってきました。そして、
力を
協せて、やっと
重い
車をもとの
位置にもどすことができたのです。
トロッコは、ふたたび、レールの
上を
快く
走りはじめました。
「
万歳!」と、
武ちゃんと、
敏ちゃんは、
手をできるだけ
上げて、
叫びました。おそらく、
二人の
若者は、その
声を
聞いたであろうけれど、
自分の
意地悪さを
心に
恥じたのか、こちらを
見ずにいってしまいました。
「もう、
帰ろうよ。」
「
今度は、あのいいおじさんだって、きっとしかるから。」
帰りかけると、
知らない
子供たちも、
敏ちゃんや、かつ
子さんや、
義ちゃんたちといっしょになって、
原っぱを
去りました。めいめいが
石の
破片を
抱いて
往来へ
出た
時分、
幾分日が
蔭って、どこからともなく
涼しい
風が
吹いてきました。
白い
雲が、いつのまにか、
自分たちの
頭の
上まで
広がっていたのです。
途中で、
西山や、
知らない
子供たちと
別れました。
「
家へ
帰ったら、みんなで、
石を
分けようね。」と、
敏ちゃんが、いうと、
「
僕は、こんど
理科の
時間に、
学校へ
持っていって
先生に
見せるのだ。」と、
義ちゃんが、いいました。
みんなは、
楽しかった、一
日の
遊びを
思い
返しました。
黄金色の
夏の
日は、まだ、
暗くなって
遊べなくなるまでに、だいぶ
時間があったのであります。
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