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深山の秋(1)
日期:2022-11-14 00:07  点击:238

深山の秋

小川未明


あきすえのことでありました。年老としとったさるがいわうえにうずくまって、ぼんやりとそらをながめていました。なにかしらんこころかなしいものをかんじたからでありましょう。なつのころは、あのようにいきいきとしていたが、もうみんなれかかっていて、やがては、自分じぶんたちのうえにもやってくるであろう、ながねむりをかんがえたのかもしれない。たとえ、はっきりとあたまかんがえなくとも、一にせよ、その予感よかんとらえられたのかもしれない。いつになく、とおしずかな気持きもちで、かれは、くものゆくのをじっと見守みまもっていました。
夕日ゆうひは、かさなりった、たかやまのかなたにしずんだのであります。さんらんとして、百みだれている、そして、いつも平和へいわ楽土らくどが、そこにはあるもののごとくおもわれました。いましも、サフランのはなびらのように、また石竹せきちくはなのように、うつくしくったくもながら、あわれないざるは、しかし、自分じぶんちいさなあたまはたらきより以上いじょうのことはかんがえることができませんでした。
「あのさきにいくのは、やまにすんでいるおおかみくんにているな。そういえば、つぎにいくのは、あのおおきいくまくんか、そのあとから、はたっていくのは、いつかもりであったきつねくんによくている。」
そうおもって、くも姿すがたをながめていると、自分じぶんるかぎりのやまにすむ獣物けものも、小鳥ことりも、みんなそらくもの一つ一つにることができるのでありました。それらは、たのしく、なかよくして、かみさまのまえあそんでいました。
かれは、この不思議ふしぎさまを、いわうえでじっと見上みあげていました。
「ああわかった。わたしとしったから、せめて達者たっしゃのうちに、一、みんなとこうしてあそんでみよと、かみさまがおっしゃるにちがいない。」
こうおもいつくと、いざるは、かなしそうに一声ひとこえたかく、ともだちをあつめるべく、そらかってさけんだのです。
いつしか、そらくもは、どこへか姿すがたしてしまいました。もし、がつかなかったら、永遠えいえんられずにしまったような、それは、はかないてん暗示あんじでありました。
いざるのさけごえをききつけて、すぐにやってきたのは、ちかくのくるみののぼっていたりすであります。
「どうしたのですか、さるさん、なにかわったことでもこったのですか?」と、ききました。
この年老としとったさるは、この近傍きんぼうやまや、もりにすむ、獣物けものや、とりたちから尊敬そんけいされていました。それは、このやま生活せいかつたいして、おおくの経験けいけんっていたためです。
いざるは、まず、りすにかって、いましがたくも教訓きょうくん物語ものがたりました。
「それは、すてきだった。みんなあつまって、ゆきらないうちになかよくあそんだらいいとかみさまはおっしゃるのだ。」と、いざるは、さとすようにいいました。
「ほんとうに、いいことですが、平常ふだんわたしたちをばかにしているくまや、おおかみさんが、なんといいますかしらん。」と、りすは、ちいさなあたまかたむけました。
わたしが、いまここでた、くもはなしをすれば、いやとはいわないだろう。」と、いざるが、こたえました。
「じゃ、さるさん、はやく、懇親会こんしんかいひらいてください。わたしが、ちいさいのでばかにされなければ、こんなうれしいことはありません。」と、りすは、よろこんでがりました。
そこへ、のっそりときつねがやってきました。
「さるさん、なにかわったことがあったのですか。あなたのごえをきいて、びっくりしてやってきました。」と、ずるそうなかおつきをしたきつねがいいました。しかし、このときだけは、きつねもまじめだったのです。
いざるは、いまくもはなしをしました。
「きつねさん、あなたは、はたって、その行列ぎょうれつなかはいっていましたよ。わたしたちがやるときにも、どうかあのようにしてください。」
これをきくと、きつねは、そりになって、
「あ、わたしも、ここにいて、そのくもるのだった。いままで、たけやぶのなかで、ねむってしまいました。あなたのこえをききつけて、びっくりしてをさましたのです。」といいました。
いざるは、ふたりに、使つかいをたのみました。きつねは、洞穴ほらあなにいるくまのところへ、そして、りすは、谷川たにがわのところで獲物えものっているであろうおおかみのところへいくことにしました。
りすは、いきがけに、いざるをきながら、
「ぶどうは、すこしぎたが、まだいいのがあります。かきもなっているところをっていますし、くりや、どんぐりや、やまなしのなど、まださがせばありますから、かならずいい宴会えんかいができますぜ。なんといっても、これから、ながふゆはいるのだから、うんと一にちみんなでなかよくあそびましょうよ。だいいち、このやまにすむもののこのみですから、おそらく不賛成ふさんせいのものはありますまい。」といいました。
おなじく、ちがったみちほうへいきかけたきつねは、
「そうとも、たとえ人間にんげんほどに道理どうりがわからなくとも、おれたちにだって義理ぎりはあるからな。」といいました。
人間にんげん義理ぎりなんて、あてになるもんじゃないよ。」と、りすが、ちいさなあたまりました。
「そんなことはない。」と、きつねは、人間にんげん弁護べんごをしました。
「じゃ、律義りちぎもののくまや、勇敢ゆうかんなおおかみが、人間にんげんたすけたことはあるが、人間にんげんは、どうだ、くまや、おおかみをつけたが最後さいごころしてしまうだろう。」と、やっきになって、りすがいいりました。
すると、いざるは、わらいながら、
「こんどは、人間にんげんともおともだちになろうさ。」といいました。
「そういうさるさんだって、人間にんげんからは、さる智恵ぢえといって、けっして、よくはいわれていませんぜ。」と、りすがいうと、さすがのさるもきまりのわるそうなかおつきをしました。
「そんなはなしはどうだっていい。まあ、はやくいってこよう。」と、きつねがいったので、りすは、一飛ひととびにたにほうけていきました。
とうげうえには、一けん茶屋ちゃやがありました。なつからあきにかけて、このけわしい山道やまみちあるいて、やまして、他国たこくへゆく旅人たびびとがあったからですが、もうあきもふけたので、この数日間すうじつかんというものまったくひとかげなかったのであります。

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11/16 21:55