これをきくと、横 になって、新聞 を見 ていた兄 さんは、笑 いながら、起 き上 がりました。そして、弟 に向 かって、つぎのようにいったのです。
「戦争 の終 わるころは、品物 が不足 していて、だれでも、すばしっこく、人 のほしがる品 を動 かしたものは、遊 んでいても、大 もうけができたのだ。もとより、そういう人々 は、世 の中 のためとか、他人 のためとかいうことは考 えていない。ただ自分 さえよければいいので、ぜいたくしたものさ。一方 には、いままでの金持 ちが貧乏 して、着物 を売 るやら、家宝 を売 るというふうで、町 にも、幾軒 か、こっとう店 ができたのだよ。新興成金 を目 あてにね。ところが、やみ物資 もなくなると、たちまち金 もうけの道 がとだえて、にわか大尽 は、また昔 のような丸 はだかとなって、もうこっとう品 など買 うものがなくなる。それどころか、中国 へ出 す国内 の生産 が復興 しないから、ともぐいするようになる。弱 いものからまいってしまう。近 ごろ、死 ぬ人 がめっきりふえたのもこんな原因 がある。だから、町 のこっとう屋 が、葬儀屋 に早 がわりするのは不思議 でないよ。」
「兄 さん、息苦 しい世 の中 になったんだね。」と、少年 は、いいました。
「なにしろ、せまい国 の中 へ、八千万 からの人間 がおしこめられているのだものな。」と、兄 さんは、ため息 をつきました。
「それは、僕 にもわかるよ。なぜって、小 さな入 れ物 の中 へ、金魚 をたくさん入 れておくと、だんだん死 んでしまうものね。」
彼 は、このごろ、やっと、ひろびろとした、原 っぱで、野球 のできる喜 びを思 い起 こして、不幸 な祖国 のきゅうくつな現状 を悲 しまずには、いられませんでした。
「どれ、原 っぱへ遊 びにいってこよう。」
少年 は、じっとして、家 にいられなくなって、こう叫 ぶと、外 の方 へ飛 び出 しました。しかし、自由 を欲 する彼 に対 して、だれもとがめるものはありませんでした。
原 っぱへいけば、そこには、かならず、二、三人 の彼 の仲間 がいました。大空 は、まんまんとして、原 の上 に青 い天蓋 のように、無限 にひろがっているし、やわらかな草 は、美 しい敷物 のごとく、地上 を目 のとどくかぎりしげっていました。
「世界 じゅうを、どこまでも飛 んでいける、渡 り鳥 はしあわせだね。」と、N くんがいいました。
「そうするように、神 さまが、羽 をくだされたんだもの。」と、K くんが答 えました。
「なぜ、人間 にだけ、それができないのだろうね。」と、S くんが、ただすと、
「人間 にだって、汽船 や、飛行機 を発明 する力 を神 さまがくださったのだ。自由 にどこへでもいけるようにね。」と、K くんが、いいました。
「しかし、ここから先 、いってはいけないとか、ここから内 へ入 ってならないとか、実際 はきゅうくつなんでないか。」と、S少年 は、ききかえしました。
「神 さまは、世界 をみんなのため、お造 りになったのだから、だれにもそんな繩張 りをする権利 なんかなかったのだ。それを人間 どうしが、たがいに意地 わるをして、強 いものが、弱 いものをいじめて、かってに楽 をしようとしたのだよ。」と、K くんは答 えて、なお、考 えていました。少年 はK くんの考 えが、まったく自分 の考 えと一致 しているのを知 って、うれしかったのです。
「K くん、僕 は、人間 があまり強欲 なものだから、戦争 をしたり、けんかをしたり、罪 もない動物 まで殺 したりするのだと思 うよ。神 さまの与 えられた生命 を奪 ってしまうという、残忍 な行為 は、ゆるされないのでないかね。」と、少年 は、ききました。
「だから、そういう残酷 なことをするものには、きっと罰 があたるだろう。」
「君 もそう思 う。僕 も、天罰 があたると思 っている。」
「どうして、ほかの動物 より、人間 のほうがえらいんだろうね。」と、いままで、だまっていた、K くんが口 を開 きました。
「おたがいに、愛情 があり、しんせつだったから、万物 の長 といわれたが、いまは、残忍 なこと、ほかの動物 の比 でないから、かえって、悪魔 に近 いといえるだろう。」と、S少年 がいいました。
このとき、赤 く日 は、西 の山 へ沈 みかけていました。三人 の少年 は、しばらくだまって、地平線 をながめながら、思 い思 いの空想 にふけっていました。
考 えれば、まだ地球 には、どれほど、人 の住 んでいない広 い土地 があるかしれない。人間 の必要 とする宝 が埋 ずまっている山 や、谷 があるかしれない。また茫漠 として、耕 されていない野原 があるかもしれない。それなのに、衣食住 に窮 して、死 ななければならぬ人間 がたくさんいる。それはどうしたことだろうか。
飢餓 、戦争 、奴隷 、差別 、みんな人間 の社会 のことであって、かつて鳥類 や、動物 の世界 にこんなようなあさましい、みにくい事実 があったであろうか。こんなことをしなくても、彼 らは自然 をたのしみ、なやむことなく、安心 して生活 するではないか。こんなような疑 いが、期 せずして三人 の頭 の中 にあったのでした。
「ああ、忘 れていた。こんど学校 へ国際親善 の題 で、作文 を書 いて出 すのだったね。」と、S少年 が思 い出 して、いいました。
「君 は、なにを書 くつもり。」と、N くんが、二人 の方 を向 いて聞 きました。
「僕 は、外国 のお友 だちに、人間 はみんな平等 なのだから、おたがいに力 を合 わせて、みんなが幸福 になるような、いい世界 を造 ろうじゃないかと訴 えるつもりだ。」と、K くんが、いいました。
「K ちゃん、僕 も、おなじなんだよ。いままで、大人 たちの強欲 から、戦争 が起 こったんだ。自分 にとってだけでなく、相手 にとっても尊 い生命 であると知 ったら、殺 し合 うことはできないはずだ。どんな幸福 も、これほどの罪悪 には償 わないと思 うよ。だから、神 さまの心 にそむくような武器 は、いっさいなくしてしまって、どうしたら平和 にみんなが生活 することができるかと、相談 するようにしたい。世界 じゅうのお友 だちが、その気 になってくれたら、僕 たちの時代 には、いままでとちがった、りっぱな世界 になれるのでないか。」と、S少年 がいうと、
「賛成 、賛成 !」と、N くんが同感 して、熱 い拍手 をおくりました。
日 はまったく暮 れて、いつしか、夕焼 けの名残 すらなく、青々 として澄 みわたった、空 のたれかかるはてに、黒々 として、山々 の影 が浮 かび上 がって、そのいただきのあたりに、きらきらと、一つ、真珠 のような星 が、かがやきました。こんな時分 になっても、まだあちらでは、遊 んでいて、元気 のあふれる子供 らの声 が、きこえていました。
「
「
「なにしろ、せまい
「それは、
「どれ、
「
「そうするように、
「なぜ、
「
「しかし、ここから
「
「
「だから、そういう
「
「どうして、ほかの
「おたがいに、
このとき、
「ああ、
「
「
「
「