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谷間のしじゅうから(1)
日期:2022-11-19 07:27  点击:240

谷間のしじゅうから

小川未明


はるのころ、一この谷間たにまおとずれたことのあるしじゅうからは、やがて涼風すずかぜのたとうとする今日きょう谷川たにがわきしにあったおないしうえりて、なつかしそうに、あたりの景色けしきをながめていたのであります。
小鳥ことりたちにとって、この二、三かげつあいだは、かなりながあいだのことでありました。そのときは、やっとゆきえたばかりで、るものがすべて希望きぼうっていきいきとしていました。しじゅうからは、のしげったかしのつけて、をかけようかと、ともだちとえだあいだびまわっていました。日光にっこうしぐあいなどをしらべなければならなかったからです。
すると、かしのは、不平ふへいらしいかおつきをして、
承諾しょうだくなしに、わたしえだをかけてはいけません。」といいました。
それは、無理むりのないぶんでありました。しじゅうからは、ついことわるのをわすれてしまったのです。なぜなら、をかけることはとりたちにとって、あたりまえのことで、わるいこととおもっていなかったからでした。
「ごめんください。どうぞわたしに、ちいさなえだしてくださいませんか?」と、たのみました。
昨日きのうも、うつくしいこまどりがきて、いろいろたのんだのですけれど、どうもとりをかけさせるとよごして、いやになるからゆるさなかったのですよ。いっそすずめばちにでもしてやったら、いたずらものりつかなくていいかとおもっているのです。」と、ごうまんないいかたをして、かしのは、こたえました。
「あの、すごいけんっているすずめばちにですか?」
「そうですよ。」
ちょうど、このとき、ひとこえがしたので、しじゅうからは、おどろいてしたると、ほそみちくさけながら、おじいさんが、子供こどもをつれて、まきを背負せおって、ふもとのほうくだっていくところでした。
「ああ、ここに、こんなひととおみちがあったのか? あの臆病おくびょうな、注意深ちゅういぶかいこまどりが、なんでたのんでも、こんなところへをかけよう。」
ししじゅうからは、この威張いばっているかしのが、いいかげんなことをいっているとりましたので、自分じぶんもここへをかけるのはかんがものだとおもって、へとうつっていきました。
かれまった、とちのきは、みごとなしろはなひらいたばかりでした。
「しじゅうからさん、わたしはなと、あすこにいているうつぎのはなと、どちらがきれいでしょう?」と、とちのきは、しじゅうからにかって、ききました。
「さあ、あなたは、しろはなですし、あちらはあかいろですね。どちらもみごとではありませんか?」
しじゅうからは、なぜとちのきが、こんなつまらないいをしたのかとうたがわずにはいられなかったのです。
「いえ、昨日きのうたびめずらしいとりが、ここへやってきましたが、わたしへはまらなかったので、わたしは、かなしくてなりませんでした。」と、とちのきは、さも無念むねんそうに、おおきなをはたはたとふるわせていました。
「とちのきさん、あなたは、こんなにふといし、そして、たかいではありませんか。きっとたびとりは、あのひくあわれとおもってまったのですよ。」と、しじゅうからは、とちのきをなぐさめたのでありました。かれはかかるけわしい谷間たにまかたすみにも、こうしたなやみとあらそいがあるのかといたましくかんじました。
そのつぎに、しじゅうからは、しらかばのえだうつったのです。
わかい、すらりとしたしらかばは、ちょうど更衣ころもがえをしているところでありました。
「そんなにわたしてはいけません。どうしてって、ずかしいのですもの。わたしのお化粧けしょうが、すっかりできあがった時分じぶんに、もう一ここへきて、わたしてくださいまし。」といいました。
「しらかばさん、その時分じぶんわたしたちは、どこにいるかれませんが、たとえ、やってこなくてもおこってはいけません。それは、けっしてあなたをわすれたのでなく、たぶんそのころは、いちばんわたしたちの生活せいかついそがしいときだからです。そのかわり、このつぎ、こちらへきたときに、あなたがどんなにうつくしくなっていられるか、るのがたのしみであります。」といいました。しじゅうからは、しらかばのうぬぼれが、むしろ、いじらしくおもわれました。

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