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谷間のしじゅうから(2)
日期:2022-11-19 07:27  点击:239
 
最後さいごに、かれは、このいしうえりて、みずみ、きしっているかえでのと、それにからんだむべのとを見上みあげたのであります。急流きゅうりゅうが、二ほんあらっていました。そして、もし大雨おおあめって、出水しゅっすいをしたら、かれらは、こそぎに、さらわれてしまう運命うんめいにありました。しかし、二ほんはしっかりと、たがいにってたすっていました。しじゅうからは、このようすをると、ふか同情どうじょうをしたのであります。
「一つ、つぼみがつきましたね。」と、しじゅうからはやさしい調子ちょうしで、むべにかってこえをかけました。
これをいて、かえでのは、がことのようによろこんで、
今年ことしはじめてくのですよ。きっと、ふじのはなよりもうつくしいし、また、ばらのはなよりもうつくしいとおもっています。」といいました。
「たしかにきれいです。そして、おおきないいむすんでください。」と、しじゅうからは、こたえました。
今度こんどは、むべが、ともだちについて、かたりました。
「かえでさんのこの若芽わかめは、すてきではありませんか。これがびたら、きっとえだぶりがよくなって、このあたりで一ばんになると、あなたは、おおもいになりませんか。」といいました。
「たしかに、りっぱなえだぶりになります。もし、わるいむしがついていたら、わたしが、ってあげますよ。」と、しじゅうからが、かえでのにいいました。
「よくごしんせつにいってくださいました。だがわたしたちは、ふゆあいだゆきかぜにさらされていました。しかもここはいちばん吹雪ふぶきのはげしいところでした。おかげむしたまごは、みんなんでしまいました。」と、かえでのは、こたえたが、その言葉ことばには、元気げんきがみちみちていました。むべはまたしなやかなつるをばして、あたかも大空おおぞら太陽たいようをつかもうとするように、きらきらとかがやいていました。
このは、とおくでやまばとがき、ちかくのむらでは、かっこうとうぐいすがいていました。
そのときから、三月みつき日数ひかずがたったのであります。しじゅうからは、むべとかえでのことをおもして、んできたのでした。すでに谷川たにがわみず飛沫ひまつのかかるこずえは紅葉こうようをしてなつはいきかけていました。
とちのきも、しらかばのも、黙々もくもくとして、やがてやってくる凋落ちょうらく季節きせつかんがえているごとくでありました。あたりのたににこだまして、夕暮ゆうぐれをげるひぐらしのこえが、しきりにしています。
「あれから、きれいなはなきましたか。そして、りっぱながなりましたか?」と、しじゅうからは、むべにこえをかけました。むべのは、あたまって、
はなは、あののち、じきに、情無じょうなしのかぜにもぎとられてしまいました。」と、こたえました。そして、むべのつるが、しっかりとれた小枝こえだにぎっているのをて、しじゅうからは、
「それは、なんですか?」と、たずねたのでした。
「これは、あのときのみごとなかえでの若芽わかめです。あるおおきな、かみきりむしがんできてぷつりとってしまいました。わたしは、かわいそうな小枝こえだが、したながれにちてしまわないうちに、いそいでらえたのでした。いや、あのかわいらしい小枝こえだが、わたしにすがったのでした。どうして、これがはなせましょう?」
しじゅうからは、みんなが希望きぼうえたっていた、ったはるがいまさらのごとくしまれたのでした。かれは、谷風たにかぜに、むべのつるが、むなしくえだにぎったまま夕空ゆうぞらになびいている姿すがたをながめながら、どうか、このつぎのはるまでに、むべも、かえでも、もっとふとく、つよくなるようにといって、どこへとなくんでいきました。
 

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