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だまされた娘とちょうの話(2)
日期:2022-11-19 07:28  点击:237
 
あるのこと、ふるくから、この病院びょういん出入でいりして、炊事婦すいじふ看護婦かんごふと、顔見知かおみしりという老婆ろうばが、ふいに、おたけのもとへやってきて、まえ約束やくそくがあるのだから、少年しょうねんいをわってもらいたいといいました。
「だしぬけで、おどくですけれど、ほんとをいうと、あんたのような、わかい、きれいなかたは、こんなところにいるものでありませんよ。どんないいお屋敷やしきでも、また、キャバレーでも、おもしろくて、おかねになるところがいくらもあるではありませんか。わたしのような、おいぼれは、いくところがないから、しかたなしにこんなくすりくさい、陰気いんきなところにいるけれど、わたしだって、わかければ、一にちだってがまんできやしない。」と、老婆ろうばは、もっともらしくまくしたてました。
けれど、おたけは、少年しょうねんがなんというだろうかと、そのほうましたが、老婆ろうばとは、かねていとみえて、だまっていたので、いまさらこの病院びょういん未練みれんのあるはずがなし、そののうちに、ひまをとってることにしました。
かのじょは、老婆ろうばが、自分じぶんうつくしいといったのが、いつまでもあたまにあって、けっして、わるいがしませんでした。また口入くちいへいくにしても、髪形かみかたちがきれいであれば、いっそう、いいところへ世話せわをしてくれるにちがいないとかんがえて、かねて、一はいってみたいとおもった、美容院びよういんあるきながらさがしました。
たまたまあった、美容院びよういんとびらしてうちはいると、室内しつないは、いいかおりがただよい、はなみだれるように、うつくしいむすめたちが、あふれるばかりあつまっていました。かのじょは、かおがぼうっとしたが、だんだん、おちつくと、ひとりひとりの、うつくしいかおたのでありました。そして、こころひそかに、
「さっきまでいた病院びょういんと、こことのありさまは、なんというちがいだろう。」と、つぶやかずにいられませんでした。
そのとき、季節きせつはずれの、おおきなくろいちょうが、どこからまよいこんだものか、ガラスまどにつきたって、しきりと、出口でぐちをさがしていました。
「かわいそうに、花園はなぞのおもって、香水こうすいや、電気でんきにだまされたんだわ。」
かのじょは、まだ自分じぶんが、ちょうど、そのちょうであることにがつきませんでした。
おもいのほか、電髪パーマネント手間てまどられて、そとたときは、いつしか西にしほうそらが、わずかに淡紅色たんこうしょくをして、れていました。平常へいじょう、むだづかいをせずにためていたかねがあるので、これから、宿屋やどやまろうと、すでにかおなじみの口入くちいへいこうと、その心配しんぱいはないけれど、さすがに心細こころぼそおもいました。病院びょういんで、少年しょうねん田舎いなかはなしをしたら、
「ぼくは、そんなほたるがんでいたり、さかなれるかわのあるところが大好だいすきだ。なぜ、おねえちゃんは、こんなやかましいまちなかきなの。」と、ふしぎそうにいったことなど、おもされました。やがて、大通おおどおりへようとすると、路地ろじかたすみに、ちょうちんをつけた、易者えきしゃのいるのが、はいりました。
そのちょうちんには、手相てそううえ判断はんだんいてありました。かのじょは、それをると、おなみち往来おうらいして、いくたびかためらったが、ついに、そのほうへとちかづきました。
手相てそうてくれるのは、まだ若者わかものだったが、若者わかものは、一目ひとめで、かのじょ田舎いなかからて、まだのないものだとりました。さながら、あひるが、化粧けしょうしたようなあるきつきや、ただ、流行りゅうこうをまねさえすれば、うつくしくえるとでもおもっている、けばけばしくて、あかぬけのしないようすが、若者わかものにはかえってあわれみをそそったのでした。
うえ相談そうだんですか。みぎのほうのをおしください。」
はずかしそうにしてす、おたけを、てのひらから、つまさきまで、若者わかものは、うすぐら提燈ちょうちんらしながら、虫眼鏡むしめがねでこまかにながめていたが、やがて、かおげると、
「あなたは、正直しょうじきですから、ひとにだまされやすい。よく、よく、用心ようじんしなければなりません。」
たけは、こころなかで、これとおなじようなことを田舎いなかで、近所きんじょのおじいさんがいったが、あのときは、正直しょうじきだから、おまえはひとにかわいがられるといった。都会とかいでは、どうして、反対はんたいなのだろうか、と、かんがえながら、そのあとくと、
としまわりがわるいので、これからさき大損おおぞんをなさることがある。おかねばかりでなく、うえにも、よくよくをつけなければなりませんぞ。いま、おくにのほうでは、あなたに結婚けっこんはなしがっています。だが、あなたは、あとではたいへんしあわせになられます。」
かのじょは、かおあかくして、いくたびもあたまげて、そのまえをはなれました。
わか易者えきしゃは、かれ先生せんせいから、いかなるばあいでも、相手あいて希望きぼうたせることをわすれてはならぬといましめられた、そのおしえを実行じっこうしたまでです。
自分じぶんは、田舎いなかかえれば、また、みんなから、やさしい、正直しょうじきだといって、ほめられるだろうと、おたけみちあるきながら、おもいました。
ちょうど、このとき、一はやくかのじょ出発しゅっぱつをすすめるように、どこかのえきらす汽車きしゃ汽笛きてきおとが、あおざめた夜空よぞらに、とおくひびいたのでした。
 

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