小さな妹をつれて(1)
日期:2022-11-23 23:58 点击:303
小さな妹をつれて
小川未明
一
きょうは、
二郎ちゃんのお
免状日です。お
母さんは、
新しい
洋服を
出して、
「これを
着ていらっしゃい。よごすのでありませんよ。」と、おっしゃいました。
二郎ちゃんの、いままで
着ていた
洋服はよごれて、ところどころつくろってあります。
「お
母さん、これでいいよ。」と、
二郎ちゃんは、いいました。こないだまで、こんな
服は、みっともないといったくせに、きょうは、
新しい
服を
着ていくとはいわぬのです。
「どうしてですか。」
「いいよ、これで。」
「三
年生になったのですから、
新しいのを
着ていらっしゃい。」
「だって、お
母さん、
非常時でしょう。」
「まあ、それでそういうの。」
「なんでも、きょうは、これでいいのだよ。」と、
二郎ちゃんは、いいはりました。
「みんなほかの
人は、きれいにしていらっしゃるのに、おまえだけ、そんなふうをしていていいのですか。」と、お
母さんは、じっと、
二郎ちゃんをごらんになりました。
「だって、
僕、わるいお
点だと、
新しい
洋服など
着ていって、
恥ずかしいんだもの。」と、
二郎ちゃんは、きまり
悪そうに、いいました。
「ああ、それでそういうのですか。
考えてごらんなさい、
平常遊んでばかりいて、いい
成績のとれるはずがないでありませんか。」
「
僕、
新学年から、
勉強するのだ。」
「どうですか。」
「ほんとうだよ、お
母さん。」
「いままでのように、
遊んではいけませんよ。」
「お
母さん、これから
勉強するから、
丙があってもしからない。」
「
丙ですか、そんなわるい
点があると
思うのですか。」と、お
母さんは
目をまるくしました。
お
母さんは、これから
勉強するなら、しからないとお
約束をして、
新しい
洋服を
着せて、
二郎ちゃんをお
出しになりました。
二郎ちゃんは、
自分でも、あまりいい
成績とは
思われなかったので、いくつ
甲があるかなあと
考えていました。
先生が、
通信箋をお
渡しなさると、
胸をどきどきさせながら
開いてみました。
体操が
甲になっているだけで、あとはずっと
乙の
行列でありました。
二郎ちゃんは、おしどりが
行儀よく
並んでいるので、おかしくなりました。しかし、お
家へ
帰ると、さすがに、
元気よくこれをお
母さんに
見せる
勇気がなかったのです。お
縁側には、ねこがひなたぼっこをしていました。
二郎ちゃんは、ねこが
大好きでしたから、すぐそのそばへすわりました。ねこは
二郎ちゃんを
見ると、ごろりと
横になって、あくびをしながら
四つ
足をのばしました。
「
僕は、
体操がうまいんだぜ、ほら
甲だろう……。」と、
通信箋をねこの
鼻さきにひろげて
見せたのです。
こちらのへやで、お
仕事をなさっていたお
母さんは、
二郎ちゃんの
声を
聞くと、
「
二郎ちゃん、
帰ったのですか。なぜここへきて、ごあいさつをしないのです。」と、おっしゃいました。
「うん、いまいくよ。」
二郎ちゃんは、ねこの
顔へ、
自分の
顔を
押しつけてから
立ち
上がりました。
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