三
二郎ちゃんは、
勇ちゃんの
家にもいませんでした。
二郎ちゃんと
勇ちゃんは、
小さなみい
子ちゃんをつれて、
川へ
釣りに
出かけたのです。それは、
勇ちゃんと
二郎ちゃんの
釣りにいく
約束がしてあったところ、
「
勇ちゃん、すこしみい
子を
見てやっておくれ。」と、
寝ているお
母さんにいわれたので、
妹もいっしょにつれていくことにしたのです。
途中、
勇ちゃんは、
小さな
妹の
手をひいてやりました。
生まれてはじめて、
広い、
青々とした
畑を
見たので、みい
子ちゃんは、なにを
見ても
珍しかったのです。
花びらが、
風に
吹かれて
飛んできても、
「ちょうちょう、ちょうちょう。」といって、よろこびました。
川へくると、ほかの
子供たちもおおぜいいました。
「
二郎ちゃん、あすこがいいよ。」と、
勇ちゃんが、
川の
曲がり
角をさしました。そこには、おじいさんが、
釣りをしていました。
二郎ちゃんと、
勇ちゃんは、おじいさんのじゃまにならぬように、すこしはなれて
糸を
下げたのです。
「あ、
二郎ちゃん、
引いたのではない。」と、
勇ちゃんが、いいました。
「ごみが、ひっかかったのだよ。」と、
二郎ちゃんは
糸を
上げて、ごみを
取りました。
「
兄ちゃん、もう
帰るの。」と、みい
子ちゃんが、
泣き
声をだしました。
「ばか、いまきたばかしじゃないか。」
みい
子ちゃんは、しかたなく
一人で
遊んでいました。
「もうお
家へ
帰るの。」と、またいいだしました。
二郎ちゃんが、ふり
向いて、
「みい
子ちゃん、一
匹釣れたら
帰ろうね。」といいました。
「みい
子のばか。」と、
勇ちゃんは、しかりました。すると、みい
子ちゃんは、わあわあと
泣き
出したのです。
「あちらへ、つれていって。」と、おじいさんが、いいました。
勇ちゃんも、
二郎ちゃんも、おじいさんの
顔を
見ました。そして、みい
子ちゃんをつれて、ほかのところへ
移りました。
「
二郎ちゃん、
僕、
先へ
帰るから。」と、
勇ちゃんがいいました。
「
僕も、いっしょに
帰るよ。」と、
二郎ちゃんも、
帰る
支度をしました。
三
人は、また
田圃道を
歩いて、
往来へ
出ました。
「
兄ちゃん、おんぶして。」と、
急にみい
子ちゃんは、
道の
上へしゃがんでしまいました。
「
困ったなあ。」と、
勇ちゃんは、
小さな
妹を
負いました。
途中で、
二郎ちゃんが、
代わってやりました。しかし、
二人とも
疲れてしまいました。みんなは、おなかがすいたのです。このとき、
二郎ちゃんが、ポケットに
手を
入れると、
昨日お
母さんが、
明日の
朝忘れるといけないとていいって、お
渡しになった
月謝が
入っていました。
「
勇ちゃん
待っておいで。」と、
二郎ちゃんは、どこかへ
向かって、
走り
出しました。そして、
道端のお
菓子屋から、キャラメルを
買ってきて、みい
子ちゃんにも、
勇ちゃんにも
分けてやりました。三
人は、やっと
元気がついて、
歩くことができたのでした。
その
晩のことです。
二郎ちゃんは、
月謝のお
金を
使ってしまって、どういっておわびをしていいかと
苦しんでいました。ちょうどそのとき、
「ごめんください。」と、
玄関で
声がしました。お
隣の
勇ちゃんのお
父さんがいらしたのです。
「お
礼に
上がりました。きょうは
二郎ちゃんに、うちの
子供がたいへんお
世話になりまして。」と、おじさんは、お
礼をいって、
月謝の
金を
返しにきてくだされたのです。
二郎ちゃんのお
母さんも、お
父さんも、はじめてそのことを
知って、すぐにいいお
返事もできず、ただおたがいさまどうしですからと、
笑っていられました。しかし、おじさんがお
帰りなさると、
「おまえは、いいことをしました。そんなときは、
自分の
力でできることなら、なんでもしなくてはなりません。」と、お
父さんは、
二郎ちゃんをおほめになりました。
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