不思議なことに、
小鳥は、まったく
元気づいてしまいました。そして、もう一
度、
海を
翔けきって
広々とした
野原を
見いだして、
自分らの
仲間に
合しようと
決心しました。
「さあ、
飛んでおゆき。」といって、
娘が
空へ
投げ
上げてくれたのを
機会に、
小鳥は、この
燈台や、
花園のある
島を
後に、
遠く、
遠く
海を
下に
見おろしながら、どこへとなく
飛んでゆきました。
ある
日の
夕方、
小鳥は、
大きな
林の
中で、みんなと
出あいました。みんなは、どこへいってきたか? あのあらしのときはどうしたか? と、いろいろにたずねました。
みんなをひきいている
親鳥は、むずかしい
顔つきをして、「
私たちはどんなに
心配していたかしれない。どこへいってきたのか、
委しく
話しなさい。」といいました。
小鳥は、あらしに
吹かれて、つい
思わぬ
方角に
飛んでいって
海の
上へ
出てしまい、わずかに一つの
大きな
火を
見つけて、そこへ
飛んでいって、やっと、やさしい
人間に
救われたということを
物語りました。
この
話をきいていた
鳥たちは、びっくりしました。またその
話のうちでも、やさしい
人間に
救われたということが
異様に
感じられたのでありました。
親鳥は、
頭を
幾たびも
傾けながら、
「
私は、まだ、そういう
燈火を
見たことがない。だいいちあらしの
夜に
燈火のついているはずがない。やはりおまえの
見たのは、
月だったろう。そして、
花園とか、やさしい
人間に
救われたとかいうのは、きっとおまえが
夢を
見たのにちがいない。
人間ほど
怖ろしいものが、この
世界にあろうか?
人間が、おまえを
捕らえたら、けっして
助けてくれるものでない。また、あのすごいあらしの
晩に、おまえの
翼で
海の
上を
飛べるものでない。きっと、おまえは、どこかの
森の
中で
夢を
見たのだ。」といいました。
みんなも、
親鳥のいったことをほんとうに
思いました。
それから、また、これらの
渡り
鳥の
長い
旅路はつづけられました。
親鳥は、みんなにいましめていいました。
「おまえたちはけっして、はなればなれになってはいけません。いっしょに
群がってゆくのです。
高く、
高く、
空を
翔けてゆくのです。
人間は
怖ろしいから、
人間の
目につかないように、
捕らえられないように
気をつけるのです。
捕らえられたら、
殺されてしまいます。そして、
晩方は、
早く、
大きな
林の
奥深くはいって
眠るのです。
私たち
鳥は、
夜になると
目がきかなくなるのだから、
太陽のあるうちに、
林を
探さなければなりません。
月の
光を
太陽とまちがってはいけません。みんなが、
私のいうことをきかないと、このあいだみたいに、
独りだけどこへかいって
怖ろしいめをみなければなりません。それでも、
無事に
帰ってこられたことは、まことにしあわせでした。みんなは、
愉快に
幸福に、
私たちの
旅をつづけなければなりません……。」といいました。
みんなは、なるほどと
思って、
親鳥のいうことを
聞いていました。
「それでも、
無事でよかった。」
「もう、これから
気をつけなければならない。」と、
鳥たちは
口々にいって、
燈台のあった
島の
花園から
帰ってきた
鳥に
向かっていってきかせました。
哀れな
小鳥は、なんといってもみんなが
信じてくれないのを
悲しく
思っていました。そして、
彼はみんなとその
後は、いっしょに
旅をつづけました。けれど、
彼は、あのすさまじいあらしの
夜のことを
思うと
身ぶるいがしました。また、
燈火の
光を
見たときのことを
思うと
胸が
躍りました。そして、あの
美しかった
花園に
眠ったこと、そして、また、やさしい
娘の
手に
握られて、
温かな
息をかけてもらったことを
思い
出すと、
恍惚とせずにはいられませんでした。けっして、それは
夢ではなかったのです。この
小鳥だけは、おそらく
終生、
自分の
経験したことを
思い
出して
忘れなかったでありましょう。
――一九二四・一二作――
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