こうしてじっとしているうちに、海豹はいつであったか、月が自分の体を
「さびしくて、さびしくて仕方がない!」
と言って、月に
すると、月は物思い顔にじっと自分を見ていたが、その
さびしい海豹は毎日毎夜、氷山のいただきにうずくまって、我が子供のことを思い、風のたよりを待ち、また、月のことなどを思っていたのでありました。
月は、決して海豹のことを忘れはしませんでした。太陽が、
子供をなくした親の海豹が、夜も眠らずに、氷山の上で
あまりに、あたりの海は暗く、寒く、海豹の心を楽しませる何もなかったからです。
「さびしいか?」と言って、僅かに月は声をかけてやりましたが、海豹は悲しい胸のうちを、空を仰いで訴えたのでした。
しかし、月は自分の力で、それを
其の夜から、月はどうかして、このあわれな海豹をなぐさめてやりたいものと思いました。ある夜、月は灰色の海の上を見下ろしながら、あの海豹は、どうしたであろうと思い、空の路を急ぎつつあったのです。やはり風が寒く、雪は低く氷山を
「さびしいか?」と月はやさしくたずねました。
この前よりも、海豹は幾分
「さびしい! まだ、私の子供は分りません。」と言って、月に訴えたのであります。
月は青白い顔で海豹を見ました。その光は、あわれな海豹の体を青白くいろどったのでした。
「私は世の中のどんなところも、見ないところはない。遠い国の面白い話をしてきかせようか?」と、月は海豹に言いました。
すると海豹は頭を振って、
「どうか、私の子供がどこにいるか、教えて下さい。見つけたら知らしてくれるといって約束した風は、まだ何んとも言ってきてくれません。世界中のことが分るなら、他のことはききたくありませんが、私の子供は、いまどこに
月はこの言葉をきくと、黙ってしまいました。何といって答えていいか分らなかったからです。それ程、世の中には海豹ばかりでなく、子供をなくしたり、さらわれたり、殺されたり、そのような悲しい事柄が、そこここにあって、一つ一つ覚えてはいられなかったからでした。
「この北海の上ばかりでも、
月は海豹にした約束を決して忘れませんでした。ある
これ
男共は牛や羊を追って、月の下の霞んだ道を帰って行きました。女達は花の中で休んでいました。そして、そのうちに、花の香りに酔い、やわらかな風に吹かれて、うとうとと眠ってしまったものもありました。
この時、月は小さな太鼓が、草原の上に投げ出されてあるのを見て、これを、あわれな海豹に持って行ってやろうと思ったのです。
月が手を伸ばして太鼓を拾ったのを、誰も気付きませんでした。その夜、月は太鼓を負って、北の方へ旅をしました。
北の方の海は、
「さあ約束のものを持って来た。」といって、月は太鼓を海豹に渡してやりました。
海豹は、その太鼓が気に入ったと見えます。月が、しばらく日の