そういわれたので、
達夫くんは
顔が
赤くなりました。なぜなら、
日ごろから
自分は
強いのだと
自信しているだけに、いまさらはずかしくもできないなどと、
弱音をはきたくはなかったからでした。
「
達夫さん
一人では、かわいそうだわ。」と、かね
子さんがいいました。
「じゃ、かね
子さんもいっしょにおいきよ。」と、だれかがからかいました。
「
私、こわいわ。」と、かね
子さんは
身ぶるいしました。
ちょうど、このとき、
風の
音がして、そのあいまにとおくの
方で、「つじうら、つじうら。」という
声がしました。
「ほら、きた!」と、みんなは
恐しさ
半分、おもしろさ
半分に、おどりあがりました。
「
僕、いこうか?」と、
達夫くんは
小さい
声で、かね
子さんにいうと、
「
私もいっしょにいくわ。」と、かね
子さんは、
小さい
声で
答えました。
「いいよ、
僕ひとりで。」と、
達夫くんは
強くいいました。
「つじうら――つじうら。」
だんだんその
声は
近くなって、もうまもなく、この
家の
前にきかかっていました。
「
僕、つじうらを
買ってくる!」と、ふいに
達夫くんは
立ちあがりました。
「えらいなあ!」と、なかにはびっくりして、
声をたてるものもあります。
達夫くんは、さむい
星ばれのした
外に
出て、
戸口に
立っていました。やがて、あわれな
黒いかげがとぼとぼと
雪道をちょうちんの
火でたどってくると、もう
恐ろしいなどということを
忘れて、
「おじいさん、つじうら……。」といって、おあしを
出しました。
あわれなかげは、
立ちどまりました。
暗いちょうちんの
火は、わずかに、しなびた
手をてらしだしました。
「おじいさんではありません、おばあさんですよ。
坊ちゃん、さむいからかぜをひかぬようになさい。」
そういって、そのあわれなかげは、またとぼとぼといってしまいました。
達夫くんは、
目の
中にあついなみだのわくのをおぼえました。そしてしばらくそのうしろすがたを
見おくっていると、
「つじうら――つじうら。」と、そのおばあさんの
声がたよりなく
風に
消えていきました。
このとき、にぎやかな
家の
中から、
「
達夫さん。」「
達夫さん。」と、みんなが
自分の
名をよんでいるのがきこえました。
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