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天下一品(3)
日期:2022-11-26 23:56  点击:252
 
こう、とっさの間あいだに男おとこは思おもいました。彼かれは、財布さいふをはたいて、五両りょうでその仏像ぶつぞうを買かいました。そして、それを横抱よこだきにして、大急おおいそぎで村むらを指さして帰かえってきました。
家いえに帰かえってから、背中せなかの仏像ぶつぞうをおろして、買かってきたのと二つ前まえに並ならべてみますと、まさしく寸分すんぶんも違ちがっていませんでした。男おとこは、手ての欠かけていない仏像ぶつぞうをふろしきに包つつんで、それを持もって、隣村となりむらの金持かねもちの家いえへ出でかけてゆきました。
金持かねもちは、家うちにいました。男おとこを見みると、笑顔えがおで迎むかえました。
「仏像ぶつぞうを持もってあがりました。」と、男おとこはいいました。
「あ、それは、それは、じゃ、先日せんじつの値あたいで売うってくださるか。」と、金持かねもちは、大喜おおよろこびでした。そして、男おとこの出だした仏像ぶつぞうを押おしいただいて、眼鏡めがねをかけてじっと見みましたが、
「これは、先日せんじつの仏像ぶつぞうであるかな。」と、けげんな顔かおつきをしてたずねました。
「さようでございます。」と、男おとこは、頭あたまを下さげた。
「いや、違ちがう。先日せんじつ見みたのは、たしかに手てが欠かけていた。私わたしはその欠かけたぐあいが、たいそうおもしろいと思おもって気きに入いったのだが……。」と、金持かねもちはいいました。
「じゃ、あなたは、手ての欠かけているのがよろしいのですか、それなら家うちにありますが。」と、男おとこはいいました。
すると、金持かねもちは、目めを円まるくして、
「家うちにある……まだ、これと同おなじ仏像ぶつぞうが家うちにあるのですかい。」
「さようでございます。手ての欠かけたのなら、家うちにあります。」
「いや、それなら、私わたしは、よしておこう。天下てんか一品ぴんと聞きいて、つい買かう気きになったのだが、そういくつもあっては、もう欲ほしくはない。そういえば、あまりこの仏像ぶつぞうも好いい作さくではないようだ。」と、金持かねもちのようすは、急きゅうに変かわりました。
男おとこは、失敗しっぱいしてしまいました。その家いえを出でると、彼かれは、残念ざんねんでたまりませんでした。うまくゆけば二つで二千三百両りょうになるものをと思おもいますと、ほんとうに取とり返かえしのつかない、失敗しっぱいをしたと気きづきました。彼かれは、どうかしてこの埋うめ合あわせをしなければならぬと思おもいました。
「村むらの大尽だいじんに、高たかく売うりつけてやろう。」と、男おとこは考かんがえました。
男おとこは、家いえに帰かえり、今度こんどは、失敗しっぱいをしないつもりで、手ての欠かけた仏像ぶつぞうをふろしきに包つつんで、村むらの金持かねもちのところへ持もって出でかけました。
金持かねもちは、男おとこがやってくると、にこにこして迎むかえました。
「じつは、おまえさんが見みえるだろうと思おもって、待まっていた。あの仏像ぶつぞうを持もってきたかい。」と、金持かねもちはいいました。
「さようでございます。」と、男おとこは、さっそく、包つつみを解といて仏像ぶつぞうを出だしました。
金持かねもちは、仏像ぶつぞうを取とり上あげて、つくづくと見みていました。
「天下てんか一品ぴんの代物しろものでございます。千五百両りょうで買かっていただきとうぞんじます。」と、男おとこはいいました。
「千五百両りょうでも、二千両りょうでも買かうが、惜おしいことには手てが欠かけている。私わたしは、もとから傷物きずものは大だいきらいなんだ。千両りょうでも、じつは考かんがえているんだ。」と、金持かねもちはいいました。
「なににしても、いい作さくでございます。」
「ああ、作さくは、まず申もうし分ぶんなしといっておこう。ただ、手ての欠かけているのが惜おしい。」と、金持かねもちはいいました。
男おとこは、もう一つの完全かんぜんなほうを、ここへ持もってくれば好よかったかとまどいました。
「じつは、先祖せんぞの時代じだいから、もう一つほかに同おなじ仏像ぶつぞうが伝つたわっています。そのほうなら、手ても完全かんぜんでございます。」と、男おとこはいいました。
すると、金持かねもちは、喜よろこぶかと思おもいのほか、手てに持もっている仏像ぶつぞうを下したに投なげるように置おきました。
「この詐欺師さぎしめが、天下てんか一品ぴんに、二つあって、たまるものか。おまえは、あの物識ものしりとぐるになって、俺おれに、やくざ物ものを買かわせようとたくらんだにちがいない。そんな量見りょうけんだと、この村むらから追おい出だしてしまうぞ!」と、金持かねもちは、たいそう怒おこりました。
男おとこは、もはや、取とり付つく島しまがなく、そこから逃にげるように出でましたが、なんだか、いままでのことが、みんなはかない夢ゆめであったというような気きがして、いま、はじめて目めが覚さめたのでした。
田圃たんぼを通とおると、ほかの田圃たんぼは、みんなよくしげっていいできでしたけれど、自分じぶんの田圃たんぼばかりは、草くさが茫々ぼうぼうと生はえていました。そして、みんなから、大金持おおがねもちになったといううわさをたてられているだけに、明日あすから、また田圃たんぼへ出でて、草くさを取とる気きにもなれず、男おとこは、二つの仏像ぶつぞうをいまいましそうににらんで、あきれたように家いえのうちに閉とじこもっていたそうであります。
 

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09/27 21:42