ある日 秀吉 は、K にいわれるまま、彼 の家 へ遊 びによったのでした。学校 でもK は、よくできるという評判 でした。教師 もK にたいしては、秀吉 とは反対 で、彼 を見 る目 つきは、いつも柔和 であり、ときには、こびるように、やさしい言葉 をかけるとさえ思 われることもありました。秀吉 はK について、よくふき清 められた玄関 を入 ると、ひやりとした空気 を感 じました。
かたわらには患者 の控 え室 があって、そこをぬけると、薬品 のにおいのする診察室 があり、並 んで座敷 になっていました。秀吉 は、K の客 という資格 で、案内 されるまま、奥 にあるK の書斎 へみちびかれました。その際 、座敷 のうすぐらい床 の間 においてあった、美 しい尾 をひろげた大 きな鳥 に、目 をうばわれたのであります。
「君 、あの鳥 は、なんというのかい。」と、秀吉 は、友 だちの机 のそばにすわると、すぐたずねました。
「あの鳥 を、まだ知 らないの。孔雀 の剥製 なんだよ。」と、K は答 えました。
「ほんとうに、きれいな鳥 だね。どこにすんでいるのだろうね。」
「なんでも、南洋 の暑 い国 にいるというよ。」
「どうやって、捕 らえるのだろうね。」と、彼 は、それから、それへと、空想 してききました。
「しかし君 、あの尾 のいちばんきれいなところが、大毒 なんだというよ。」と、K は、秀吉 にいいました。
「あの紫色 にぴかぴか光 るところなの。」と秀吉 は、思 わず目 をかがやかしたのです。
「ああ、そういう話 だよ。」
「なめれば死 ぬかしらん。」と、秀吉 は、いいました。
「それは、死 ぬだろう。しかし、もう置物 にされて古 いのだから、あてにならんが、それより、もっとおそろしい毒薬 を見 たことがあるよ。ただ見 ただけでは、つまらん白 い粉 さ。一グラムの、いく百分 の一でも、それをなめると、獣 でも、人間 でも、死 ぬのだから。」と、K がいいました。
「そんな、おそろしい薬 、ぼく見 たいものだな。」と、秀吉 は、ため息 をつきました。
「家 にあるけれど、お父 さんが、子供 なんかの、見 るものではないと、厳重 に戸 だなにしまってあるんだよ。」と、友 だちは答 えました。
「このあいだ、学校 へおかあさんが呼 ばれて、僕 が小 さいときに、脳膜炎 をやったのではないかと、聞 いたそうだよ。」と、彼 が正直 に、K につげると、K は向 きなおって、
「あのはげ頭 がかい。なんで、敏感 な君 が、ばかなもんか。はげ頭 こそ、大酒 のみの酒乱 なんだよ。よくPTA の会員 の家 で、へべれけになるんだそうだ。」と、いって、K は笑 いました。秀吉 の帰 るとき、K は玄関 まで送 って出 ながら、薬室 の前 をいきかけて、
「君 、あすこに、どくろのしるしのついた戸 だながあるだろう。さっきいった毒薬 のびんが、あの中 に、はいっているのだよ。」と、指 さしました。
秀吉 は、灰色 のどくろの画 に、なにか特別 の胸 にせまる鋭 いものを感 じました。
ちょうど、そのころのことでした。町 へささやかな教会堂 がたてられました。近 くの子供 たちや、めぐまれない家庭 の女 たちが、日曜日 ごとに、お祈 りに集 まって、牧師 のお説教 をきいたのであります。
牧師 というのは、女 の外国人 でありました。その下 に、日本人 の信者 がいて、いろいろの世話 をしたり、なにかと教会 のめんどうをみながら働 いていました。一人 の青年 は、髪 のちぢれた、やせ姿 の芸術家 らしく、もう一人 は、美 しいお嬢 さんでありました。平常 、女 のほうは、子供 らとオルガンにあわせて、讃美歌 をうたい、また希望者 に英語 を教 えたりしました。そして、青年 のほうは、子供 らに、手工 のけいこをしたり、自由画 をかかせたりしました。
ある日 、この若 い男 の先生 は、子供 がならんでテーブルに向 かっている前 へ、クレオンと紙 をくばって、
「なんでも見 たこと、また思 ったことを、自由 に画 にして、かいてみたまえ。」といいました。
秀吉 は、なにをかいたらいいものか、自由 という意味 が、よくわからなかったのです。いつも学校 では、教師 が問題 を出 して、それに答 えるように教 えられていました。線 一本 でも、まちがってはならぬのでした。だから、自分 では熱心 にかいたつもりでも、めいめいのものと見 くらべて、よい悪 いをきめられるので、いつも、ほめられるのは、日 ごろ成績 がいいとされているものにかぎっていました。秀吉 などは、どの科目 も、ほめられたことはなかったのです。
かたわらには
「
「あの
「ほんとうに、きれいな
「なんでも、
「どうやって、
「しかし
「あの
「ああ、そういう
「なめれば
「それは、
「そんな、おそろしい
「
「このあいだ、
「あのはげ
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ちょうど、そのころのことでした。
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「なんでも