つばめの話
日期:2022-11-26 23:56 点击:223
つばめの話
小川未明
上
夏の
初めになると、
南の
方の
国から、つばめが
北の
方の
国に
飛んできました。そして、
電線や、
屋根の
上や、
高いところに
止まって、なきました。
広い
野原の
中を
汽車がゆくときに、つばめは、
電線の
上に
止まって、じっとながめていたこともあります。また、
青い
海辺に
連なる
電線に
止まって、
海の
方を
見ていたこともあります。けれど、また
町の
人家の
店頭に
巣を
造って
日が
暮れるころになると、みんな
家の
中の
天井の
巣の
中に
入って
休みます。そして、
夜が
明けると
外に
出て、
空や
往来の
上をひらひらと
飛びまわってないているのでありました。
太郎は、ほかの
家には、つばめが
巣を
造って
毎日、
店頭から
出たり
入ったりするのを
見て、なぜ
自分の
家にも
巣を
造らないのかと
思いました。そして、このことをお
母さんに
話しますと、
「つばめが、
巣の
造れるように、
場所を
造ってやらなければなりません。」
と、お
母さんはいわれました。
「どうか、つばめが
巣の
造られるように
場所を
造えてください。」
といって、
太郎はお
母さんに
頼みました。
太郎のお
母さんは、このことを
太郎のお
父さんに
話しました。お
父さんは、
店頭の
梁へ
箱のように
板をつけました。こうしておけば、どこかいい
場所がないかと
探しているつばめが
見つけて、きっとここに
巣を
造るにちがいないからであります。
太郎は、
早くつばめがここにくるようにと
待っていました。すると、ある
日のこと、つばめが
入ってきてこの
場所に
止まりました。そのつぎには、二
羽でここにやってきました。そして、そこに
止まって
頭をかしげてなにやら
考えているようなようすでありましたが、その
日から
毎日、二
羽のつばめは、どこからか、
土や、
髪の
毛や、わらくずなどをくわえて
運んできて、せっせと
巣を
造りはじめました。そして、やがて
完全に
巣を
造ってしまいますと、
雌鳥は
巣について
卵を
産みました。
夏の
半ばころには、もはやつばめの
子供がなくようになりました。
太郎はかわいくてたまりませんでした。そのうちに
秋がきて、
秋も
半ばを
過ぎますと、つばめはどこにか、みんな
飛んでいってしまいました。
下
その
明くる
年も、またつぎの
明くる
年も、つばめは
夏の
初めになると、
飛んできました。そして、
長い
月日をそこに
送りました。やがて
秋がきてしだいに
寒くなる
時分になると、どこへか
飛んでゆきました。
太郎が、
小学校の四
年生になった
年の
夏の
初めでありました。どこの
家にもつばめが
帰ってきました。どうしたことか
独り
太郎の
家にはつばめがきませんでした。
太郎はどうしたのだろうと、
毎日、つばめの
帰ってくるのを
待っていました。
「きっと、そのうちに
帰ってくるのでしょう。」
と、お
母さんがいわれたけれど、なかなか
帰ってきそうなようすがありませんでした。
太郎は、
心配でならなかったのです。
帰る
路を
忘れてしまったのではないか、それとも
変わったことでもあったのではないかと
思い
煩っていたのであります。すると、
不思議なことにも、ある
夜、
太郎は
夢を
見ました。つばめが
帰ってきて、
太郎に
告げたのであります。
太郎さん、
去年の
秋のことでありました。
私ども
親子のものは、この
国もだんだん
寒くなったから、
南の
暖かな、
花の
咲いて、
木の
実の
熟している
夏の
国へ
帰ろうと
思いまして、ある
小さな
島までやってまいりました。その
島には、
同じ
南の
国に
帰る
連れがたくさんいました。
そこから、
広々とした
海を
渡らなければなりません。しかし、
海にはいつも
多くの
船が
走っています。その
船のほばしらや、
綱の
上に
止まって、
疲れを
休めてまた
旅をつづけるのであります。ある
夕焼けの
美しい
晩方、
私どもの
群れは、いよいよ
旅に
上りました。そして、一
日も
早く
花の
咲いている、
木の
実の
熟している
暖かな
国に
帰ろうと
思いました。
すると
二日めの
夜のこと、
思いがけなく
暴風雨に
出あいまして、みんなまったくゆくえ
不明になってしまいました。
私とほかの二、三のものだけが、やっと一そうの
船を
見出して、そのほばしらに
止まって
命が
助かりました。
私は、
太郎さんにそのことを
知らせにまいりました。と、つばめがいうと、
太郎は
夢がさめました。その
明くる
日、一
羽のつばめが
古巣にきて、さびしそうにしていましたが、
晩方、どこにか
飛んでいってしまいました。
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