時計とよっちゃん(1)
日期:2022-11-27 08:43 点击:307
時計とよっちゃん
小川未明
一
よっちゃんは、四つになったばかりですが、りこうな、かわいらしい
男の
子でした。
よっちゃんは、
毎日、
昼眠をしました。そして、たくさんねむって、ぱっちりと
目をあけましたときは、それは、いい
機嫌でありました。
「チョット、チョット。」といって、よっちゃんの
頭の
上から、このとき
呼ぶものがあります。よっちゃんは、ぱっちりした
目を
上に
向けますと、
茶だんすの
上にのせてあった、
目ざまし
時計が、いつもの
円い
顔をして、にこにこ
笑っているのでありました。
よっちゃんは、いつもおなじところに、じっとしている
時計をば
不思議そうにながめていました。たまには、
歩いて、ほかへ
動きそうなものだとおもったからです。
だまって
見ていると、
時計が、
「チョット、チョット。」と、おなじいことをいっています。
よっちゃんも、
時計を
見上げて、にっこり
笑いました。
「うま、うま……。」といって、かわいらしい
手をあげて、
時計の
方へさし
出しました。けれど、
時計は、お
菓子をくれませんでした。やはり、
笑っているばかりでした。よっちゃんは、じつに、さびしくなって、
泣き
出しました。すると、お
母さんが、あちらから、あわてて
駈けてきました。
「よっちゃん、お
目が、さめたのかい。」
二
「よっちゃん、そうお
菓子ばかり
食べるとぽんぽんが
痛くなりますよ。」と、お
母さんはいわれました。お
菓子を
食べてしまうと、よっちゃんは、すぐに、また、その
後から、「お
菓子……お
菓子。」とねだって、お
母さんが、なんといっても、ききわけがなかったのです。
茶だんすの
上には、いつもの
目ざまし
時計が、
円い
顔をしてこの
有り
様を
見ていました。このとき、お
母さんは、
茶だんすの
上にあった、
目ざまし
時計を
指しながら、「あの
長い
針が、ぐるりとまわったらお
菓子をあげましょうね。」といわれました。よっちゃんは
茶だんすの
上の
円い
時計を
見ています。しかし、
長い
針が、なかなか
早くは、まわりませんでした。「ねえ、お
菓子……おかあちゃん! お
菓子くれないの。」と、よっちゃんはいいました。
「この
長い
針が、ここまできたら、あげますよ。それでなければ、だめ。」と、お
母さんは
答えました。よっちゃんは、
指をくわえながら、うらめしそうな
顔つきをして、
時計をながめていました。
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