九
ある
日のこと、よっちゃんは、お
母さんといっしょに、
近所の、よっちゃんをかわいがってくださるおばさんのお
家へゆきました。よっちゃんは、お
母さんにだかれているうちに、
眠けがさしてきて、いつしか
眠ってしまいました。「そのまま、そっとここへお
寝かしなさい。」と、おばさんは、よっちゃんのお
母さんに
向かって、いわれました。「こまった
子ですこと。」と、お
母さんはいって、よっちゃんを、おばさんの
敷いてくださったふとんの
上へ
寝かしました。よっちゃんは、いつも、いまごろ
昼寝をしますので、いい
心地で
眠ってしまいました。「お
目がさめましたら、
私が
連れてゆきますから。」と、おばさんはいわれました。よっちゃんのお
母さんは、よっちゃんを
残して、
家に
帰ってしまったのであります。
よっちゃんは、たくさん
眠ると、
目がひとりでにさめました。よっちゃんは、
寝起きがいいのであります。ぱっちりした
目をあけて、しばらくあたりを
見まわしていました。「チョット、チョット。」と、
頭の
上で、いつもよっちゃんを
呼ぶ
時計の
音がしなかったのです。よっちゃんは、どうしたことかと
気づいてあたりをさがしますと、まったく、ようすがちがっていて、
茶だんすも、まるい、
白い
顔の
時計もないので、
急に、
恐ろしくなって
泣き
出しました。
十
おばさんは、すぐ、よっちゃんのそばにやってきて、「よっちゃん、ここは、おばさんの
家なんですよ。」といいきかせましたけれど、よっちゃんは、
泣きやみませんでした。おばさんは、しかたなく、よっちゃんを
抱いて、よっちゃんのお
家へつれてまいりました。そして、お
母さんの
手に
渡しました。よっちゃんは、お
母さんの
顔を
見ると、ますますかなしくなりました。ちょうど、このとき、
茶だんすの
上にあった
目ざまし
時計が、「チョット、チョット。」といって、よっちゃんを
頭の
上で
呼びました。よっちゃんは
時計の、
円い
白い
顔を
見ると、やっと
自分の
家へ
帰ったことがわかって、
安心しました。
その
翌日も、よっちゃんはいつものように
昼寝をしました。そして、ぱっちりと
目が
開くと、また
昨日のように、ほかの
家ではないかと、
頭をあげて、あたりを
見まわしました。すると、
茶だんすの
上にはおなじみの、
円い、
白い
顔をした
時計が、にこにこと
笑っていて、「チョット、チョット。」といって、よっちゃんを
呼びかけるのでした。よっちゃんは、それを
見ると、
安心して、にっこり
笑いました。そして、こちらへ
走ってきて、「お
母ちゃん、お
菓子……。」といって、はや、ねだるのでした。お
母さんは、その
声を
聞くと、
喜ばしそうな
顔をして、すぐに、よっちゃんのそばへやってきました。
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