こうして、
時計によって
双方が
争ったのです。
「
待ってやって、
理屈をいわれるようじゃつまらない。さっさと
時間がきたら、
仕事を
始めてしまうがいい。」と、
早い
時間を
信ずる
組は、
遅れた
時間を
信ずるものにかまわずに、
相談を
進めるようになりました。
こんなようなことで、つねに
時間から、
双方の
争いが
絶えませんでした。そのうちに、ふとしたことから、
乙のほうの
時計が
壊れてしまいました。いままで、
毎日まわっていた
針が、まったく
動かなくなってしまったのです。
神さまのように、その
時計の
時間を
信じていた
乙のほうの
組は、その
日から
真っ
暗になったように、まったく
時間というものがわからなくなりました。
そうかといって、いままで、
争っていた
甲のほうへいって、
時間をきくのも
恥と
感じましたから、
「
俺たちには、もう
時間がないのだ。」といって、
村の
相談があっても、
時刻がつねにまとまりませんでした。
甲の
組は、さすがに、
自分たちのほうの
時計は
狂わない
正しい
時計だと、いよいよその
時計のありがたみを
感じたわけです。こうなれば、
乙の
組のものも、こちらにしたがわなければならぬと
思っていました。それで、
相談があるときは、
「
午後六
時より。」というように、
時間を
定めて、
乙のほうへ
通知をいたしました。けれど、
時計を
持たなくなった
乙のほうは、六
時がいつであるかわかりません。こんなことで、いつも
相談が、はかどりませんでした。
時計が二つあったときよりも、一つになったときのほうが、
村のまとまりがつかなくなったのです。
甲のほうも、
案外乙のほうが
自分たちに
従ってこないのを
知ると、
困ってしまったのです。
「
町へいって、
時計を
直してこなければならない。」と、
乙のほうの
一人がいいました。
「
直したってしかたがない。
壊れるような
時計は、もう
信用することができない。」と、
他の
一人がいいました。
「そうすれば、どうしたらいいのか。」
「
壊れない、いい
時計を
探してくるよりしかたがない。」
「そんな、いい
時計は、どこへいったら
見つかるだろうか。」と、
乙のほうは、
寄ると
集まると
口々にその
話をしたのであります。
乙の
金持ちは、
「
今年、
酒がよく
造れたら、
遠い
町へいって、いい
時計を
買ってこよう。」といいました。
そうしているうちに、ふと、ある
日のこと、
甲のほうの
時計も
壊れてしまったのです。
自分たちのほうの
時計は、けっして
狂うことはないといって、いばっていましたが、ついにその
甲のほうの
時計も
壊れてしまったのです。
「やはり、
時計なんかというものはだめだ。すぐに
壊れてしまう。
信用のできるものでない。」と、
一人がいいますと、
「
時計があったって、なくたって、この一
日には
変わりがないじゃないか。」と、
他の
一人がいいました。
甲のほうでは、
乙のほうの
時計も
壊れてしまったのだから、いまさら、
急いで
新しい
時計を、
町へいって
求める
気にもなりませんでした。
乙のほうでも、
甲のほうの
時計が
壊れたと
聞いて、いまさら、
町へいって
新しい
時計を
求めるという
気持ちが
起こりませんでした。
村は、いつしか、
時計のなかった
昔の
状態にかえったのです。そして、
頼るべき
時計がないと
思うと、みんなは、また、
昔のように、
大空を
仰いで
太陽の
上がりぐあいで、
時間をはかりました。そして、それは、すこしの
不自由をも
彼らに
感じさせなかったのです。
時計が
壊れても、
太陽は、けっして
壊れたり、
狂ったりすることはありませんでした。
「
時計なんか、いらない、お
天道さまさえあれば、たくさんだ。」といって、みんなは、はじめて、
太陽をありがたがりました。そして、
集会の
時刻も
太陽のまわりぐあいできめましたために、みんなは、また
昔のように一
致して、いつとなく、
村は
平和に
治まったということであります。
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