どこで笛吹く(1)
日期:2022-11-28 23:41 点击:241
どこで笛吹く
小川未明
一
ある
田舎に
光治という十二
歳になる
男の
子がありました。
光治は
毎日村の
小学校へいっていました。
彼は、いたっておとなしい
性質で、
自分のほうからほかのものに
手出しをしてけんかをしたり、
悪口をいったりしたことがありません。けれど、どこの
学校のどの
級にでも、たいてい二、三
人は、いじの
悪い
乱暴者がいるものです。
光治の
級にも、やはり
木島とか
梅沢とか
小山とかいう
乱暴のいじ
悪者がいて、いつも
彼らはいっしょになって、
自分らのいうことに
従わないものをいじめたり、
泣かせたりするのでありました。
光治は
日ごろから、
遊びの
時間にも、なるたけこれらの三
人と
顔を
合わせないようにしていました。
学校の
運動場には
大きなさくらの
木があって、きれいに
花が
咲きました。そして
花の
盛りには、
教師も
生徒も、その
木の
下にきて、
遊び
時間には
遊びましたが、それもわずか四、五
日の
間で、
風が
吹いて、
雨が
降ると、
花は
洗い
去られたように、こずえから
散ってしまい、
世はいつか
夏になりました。そうなると、もはやこの
木の
下にきて
遊ぶものがありません。
光治は、その
木の
下にきたのでありました。そこは
運動場の
片すみであって、かなたには
青々としていねの
葉がしげっている
田が
見え、その
間を
馬を
引いてゆく百
姓の
姿なども
見えたりするのでした。
そのとき
思いがけなく、
例の
木島・
梅沢・
小山の
乱暴者が三
人でやってきて、
「やい、こんなところでなにしているんだい、
弱虫め、あっちへいって
兵隊になれよ。」
と、三
人は
口々にいって、
無理に
光治を
引きたてて
連れてゆこうといたしました。
「
僕は
腹が
痛いから、
駆けることができない。」
と、
光治はいいました。
「うそをつけ、
腹なんか
痛くないんだが、
兵隊になるのがいやだから、そんなことをいうんだろう。よし、いやだなんかというなら、みんなでいじめるからそう
思え。」
「
僕は、いやだからいやだというんだ。
僕のかってじゃないか、
君らは
君らで
遊びたまえ。」
と、
光治はいいました。
「なまいきなことをいうない、よし
覚えていろ、
帰りにいじめてやるから。」
と、三
人は
口々に
光治をののしりながら、
木の
下を
見返ってあっちへいってしまいました。
三
人はあっちへゆくと、みんなに
向かって、
光治と
遊んではならない、もしだれでも
光治と
遊ぶものがあれば、そのものも
光治といっしょにいじめるからそう
思えといったのでありました。ほかのものはだれひとりとして
心の
中で
光治をにくんでいるものはありませんけれど、みんな三
人にいじめられるのをおそれて、
光治といっしょに
遊ばなかったのでありました。
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