二
その
日、
光治は
学校の
帰りに、しくしくと
泣いて、
我が
家の
方をさして
路を
歩いてきました。それは三
人にいじめられたばかりでなく、みんなからのけ
者になったというさびしさのためでありました。
真夏の
午後の
日の
光は
田舎道の
上を
暑く
照らしていました。あまり
通っている
人影も
見えなかったのであります。このときあちらから、
箱を
背中にしょって、つえをついた
一人のじいさんが
歩いてきました。
光治は、このおじいさんを
泣きはらした
目で
見て、
旅から
旅へとこうして
歩く
人のように
思ったのでありました。じいさんも、また
光治の
顔をじっと
見ましたが、
路の
上に
立ち
止まって、
「
坊はなんで
泣いているのだ。」
と、やさしくじいさんは
問うたのであります。
光治ははじめのうちは
黙っていましたが、そのおじいさんは、なんとなく
普通のあめ
売りじいさんやなんかのように
思われず、どこかに
懐かしみを
覚えましたから、
彼はついに、その
日学校でみんなからのけ
者になったことや、三
人からいじめられたことなどを
話しまして、また
急に
悲しくなって
話をしながら
泣きだしたのでありました。
「ああ、わかった、わかった、
坊はいい
子だ。もう
泣くでない、その三
人は
悪い
奴じゃ。そして、みんなはいくじなしだ。そんなものにかまわんでおくだ。また、いい
友だちができる、きっとできる。おまえに
笛をやる、この
笛を
吹いて、
一人で
遊んでいると、すこしもさびしいことはない。さあ、この
笛をやるから、
一人でおとなしく
遊んで、
勉強をして
大きくなるんだ。」
といって、じいさんは
腰に
下げていた、
小さな
笛を
光治にあたえたのであります。
光治は、その
笛をもらって
手に
取ってみますと、
竹に
真鍮の
環がはまっている
粗末な
笛に
思われました。けれど、それをいただいて、なおもこの
不思議なじいさんを
見上げていますと、
「さあ、
私はゆく……またいつか、おまえにあうことがあるだろう。」
といって、
光治の
頭をじいさんはなでて、やがてその
路を
歩いていってしまいました。
光治は、しばらくそこに
立って、じいさんを
見送っていますと、その
姿は
日影の
彩るあちらの
森の
方に
消えてしまったのでありました。
その
日から
光治は
野に
出て、
一人でその
笛を
吹くことをけいこしたのであります。その
笛はじつに
不思議な
笛で、いろいろないい
音色が
出ました。
彼はじきにその
笛を
上手に、また
自由に
吹き
得るようになりました。
彼が
風の
音を
出そうと
思えば、その
笛は、さながら
風が
木々の
葉の
上を
渡るときのさわやかな
涼しげな、
葉ずれの
音が
聞こえるように
鳴り
渡りました。また
雨の
降る
音を
出そうと
思えば、ちょうど
雨が
降りだしてきて
軒端を
打つような
音を
吹き
鳴らしました。また
小鳥のなく
音をたてようと
思えば、こずえにきて
節おもしろそうに
鳴く
小鳥の
音を
出すことができたのであります。
光治は
学校から
家に
帰ると、じいさんからもらった
笛を
持って
野原へ
出たり、また
麓の
森に
入って、あるいは
草の
上に
腰を
下ろしたり、あるいは
木の
根に
腰をかけたりし、その
笛を
吹くのをなによりの
楽しみとしたのでありました。
彼はこうして
笛を
吹いていますと、あるときは、くびのまわりの
赤い、
翼の
色の
美しい
小鳥がどこからか
飛んできて、すぐ
光治が
笛を
吹いている
頭の
上の
木の
枝に
止まって、はじめのうちは、こくびをかしげて
熱心に
下の
方を
向いて、
笛の
音に
聞きとれていましたが、しまいには
小鳥も、その
笛の
音につられてさえずりはじめたのでありました。こんなふうに
光治は、
小鳥まで
自分の
友だちとすることができたので、もはや
一人で
遊ぶことをすこしもさびしくは
思わなかったのであります。
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