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トム吉と宝石(2)
日期:2022-11-28 23:41  点击:242
 
あるのことでした。二人ふたりが、ならんでみちあるいていると、ふいに、若者わかものまって、つまさきですなをかき、すななかから、なにかちいさいいしころのようなものをひろいあげました。
「こんなものをつけたが、なんだろう?」
と、若者わかものは、それをうえにころがして、ながめていました。あおみがかった、むしかたちをしたいしです。そのいしひかるものがんであって、はしのところに、いととおりそうなちいさなあながあいていました。
「きっと、ここをとおったひととしたものだろうが、なににしたものかな。」
と、若者わかものは、あたまをかしげていました。
「こうして、自分じぶんにはいったのだから、てずに、記念きねんとしてってゆこうか。」
と、若者わかものは、あおいしてのひらなかでころがしながら、ほがらかにわらいました。
「どれ、どんなものをひろったのですか。」
と、トムきちは、若者わかものひろったあおいしせてもらいました。よくると、それは、また、すばらしいものです。トムきちは、ているうちにほしくなりました。自分じぶんっているものなら、なんでもやって、えてもらいたかったのです。それほどすばらしいしなでした。しかし、トムきちは、おどろきのいろかおすまいとしました。これは、宝石商ほうせきしょうみせ使つかわれている時分じぶんくせたのです。そして、こころなかで、どうかしてごまかして、自分じぶんのものにすることはできないものかとおもっていました。
ちいさいあながあいているが、なににしたものでしょうね。」
と、若者わかものは、そんなたいしたものとはるはずがなく、こういました。
「さあ……。」といって、トムきちは、くちごもりました。そして、むねうちでは、なぜこのいしがはやくおれのつからなかったろうというくやしさでいっぱいでした。
このあおみがかったあなのあいているいしは、太古たいこ曲玉まがたまであって、ひかるのは、ダイヤモンドでありました。トムきちは、宝石商ほうせきしょうみせにいるあいだに、これとおなじものを一たことがあります。そして、それがおどろくほど高価こうかきされたのを記憶きおくしていました。いま、この珍貴ちんき曲玉まがたまが、砂漠さばくなかつかったというのは、むかし隊商たいしょうれが、ここを往来おうらいしたからです。
「これが、おれのものだったら、どんなに大金持おおがねもちになれるだろう……。」と、トムきちは、残念ざんねんがりました。
かれは、若者わかものが、このいし値打ねうちをらないのをさいわいに、この砂漠さばくなかたびするあいだに、どうかして、自分じぶんのものとする工夫くふうはないかとおもったので、わざと平気へいきかおつきをして、
「ボタンにしては、あまりお粗末そまつなものですね。どうせ、土人どじん子供こどもくびにかけたものかもしれません。」
こういって、若者わかものかえしました。快活かいかつ若者わかものは、荷物にもつのひもをほぐしていとつくり、曲玉まがたまとおして、道化半分どうけはんぶんに、自分じぶんくびにかけてあるきました。そして、いつかそのいしのことなどわすれて、なにかほかのはなしきょうがって、わらっていました。
ひとり、トムきちは、若者わかものくびにかかった曲玉まがたまあるくたびにれるのをたり、ダイヤモンドがながあいだすなにうもれて、いくぶんくもっているけれど、みがけば、どんなにでもひかるのだとおもうと、そのほうにをとられて、ぼんやりと、あいづちをつだけで、いままでのように、はなしがはいりませんでした。
それよりか、ただ、トムきちは、
「どんなようにいったら、うまくだまして、あの曲玉まがたま自分じぶんのものにすることができるだろう。」
と、かんがえていました。
トムきちは、渺々びょうびょうとした砂漠さばくうえに、あらわれたしろくもあおぎながら、
人間にんげん運命うんめいなんて、わからないものだ。いま二人ふたりは、こうしておなじように貧乏びんぼうをしているが、これから、あちらのまちいて、あの曲玉まがたまが、宝石商ほうせきしょうられたら、そのときから、このおとこは、もう貧乏人びんぼうにんでなく、大金持おおがねもちになれるのだ。そして、自分じぶんは、やはり、このままの姿すがたであろう。」
と、おもったのでありました。
そのうちに、日数にっすうがたって、砂漠さばくとおりすぎてしまいました。ある晩方ばんがた二人ふたりは、前方ぜんぽうに、紫色むらさきいろうみたのであります。
「あ、うみだ!」
うみだ!」
二人ふたりは、同時どうじさけびました。あか夕日ゆうひは、ちょうど波間なみましずもうとしています。二人ふたりは、とおあるいてきたみちをかえりながら、いわうえこしろしてやすみました。せるなみが、あしもとにくだけて、かえしては、またせているのです。
トムきちにも、また、若者自身わかものじしんにも、おそらくわからなかったことであったろうが、若者わかものくびにかけたいとをいつのまにかはずして、ひとさしゆびにはめて、くるくるとまわしていました。そして、トムきちが、はっとおもったしゅんかんに、いとゆびからはなれて、曲玉まがたまは、なみなかちてまれてしまいました。
若者わかものは、そんなことにはにもとめずに、口笛くちぶえらして、このかぎりないうつくしい景色けしきとれていましたが、トムきちは、失望しつぼう悔恨かいこんとくやしさとで、かおいろは、すっかりあおざめていました。
翌日よくじつ、ここまでみちづれになってきた二人ふたりも、いよいよわかれなければなりませんでした。
若者わかものは、トムきちかって、
「もし、わたしが、成功せいこうをして大金持おおがねもちになったら、きっとあなたのまちへたずねてゆきます。そして、あなたを、おたすけいたします。どうか、お達者たっしゃでいてください。」
といって、かたく、そのにぎりました。そして、みぎひだりに、わかれてゆきました。
トムきちは、まって、だんだんにとおざかってゆく若者わかもののうしろ姿すがた見送みおくっていましたが、まったくその姿すがたえなくなると、そこにして、すすりきをはじめました。
「なんて、おれは、あのとき、あさましいかんがえをこしたのだろう、もし、正直しょうじきだったら、そして、自分じぶんほねをおって、あの宝石ほうせきたかってやったら、あのおとこは、おもいがけないもうけによろこんで、半分はんぶんはおかねけてくれたにちがいない。そうすれば、二人ふたりとも幸福こうふくで、いまごろは、たのしいたびをつづけていたであろう……。」
と、後悔こうかいしました。トムきちは、しばらくしてから、がりました。
「これからは、いつでも正直しょうじきにして、自分じぶんだけもうけようなどとはかんがえまい。そうだ、おれには、やさしいねえさんがあった。まちかえったら、ねえさんのためにつくそう……。」
と、トムきちは、こころざまちほうかってあるいていきました。
 

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