鳥鳴く朝のちい子ちゃん(1)
日期:2022-11-28 23:41 点击:241
鳥鳴く朝のちい子ちゃん
小川未明
ちい
子ちゃんは、
床の
中で
目をさましました。うぐいすの
鳴き
声が、きこえてきました。
「おや、ラジオかしら。」
このごろ、いつもお
休み
日の
朝には、
小鳥の
鳴き
声が
放送されたからです。しかし、その
声は、お
隣の
庭の
方からきこえてくるような
気がしました。あちらには、
梅林があるし、
木立もたくさんしげっていますから、どこからかうぐいすが
飛んできて
鳴いているのでないかとも、
思われました。
「お
母さん、あれラジオのうぐいすなの。」と、ちい
子ちゃんは、
聞きました。
とっくに
起きて、
家の
中で
働いていらした、お
母さんは、
「ほんとうのうぐいすですよ。
花が
咲いているから、
飛んできたのです。さあ、あんたも
早く
起きて、お
顔を
洗いなさい。いいお
天気ですよ。」と、おっしゃいました。
「ああ、そうだ。
日曜学校へいって、
先生からお
話を
聞いて、それから、とみ
子さんや、まさ
子さんといっしょに
遊ぶ、お
約束がしてあったのだ。」と、
思い
出すと、ちい
子ちゃんは、すぐに
床から
出ました。
空は、
緑色にすみわたっていました。
朝日がさして、
木々の
葉はいきいきとかがやいて、いい
気持ちであります。
ちい
子ちゃんは、ご
飯をいただいてから、お
机の
前でまごまごしていました。お
母さんに
髪を
結ってもらって、
時計を
見ると、じき八
時になります。
「あら、おくれたらたいへん。」といって、お
玄関で、げた
箱からくつを
出してはいて、お
家を
出ました。
さっきのうぐいすでしょう、こんどは、どこか
遠くの
方で
鳴いている
声が、きこえてきました。
垣根のそばを
歩いていくと、
赤いつばきの
花の
咲いた
家があります。ご
門のところに、ぼけの
花のいっぱいに
咲いている
家もありました。またお
庭に
白い
花の
咲いた、
高いこぶしの
木のある
家もありました。そして、ちい
子ちゃんが、
広い
通りへ
出ようとしたとき、一
軒のご
門の
前に、
一人のおばさんが、ふろしき
包みをかかえて、
紙片を
持って、
門札をながめながら、ぼんやり
立っているのを
見ました。ちい
子ちゃんが
近づくと、
「お
嬢ちゃん、
川上さんという
家をごぞんじありませんか。」と、おばさんは、
聞きました。
「
川上さん?
私、
知らないわ。」
「
番地を
書いてもらってきたのですけれど、この
番地が
見つからないのですよ。」
おばさんは、
家政婦さんか、
女中さんでありました。
雇われるお
家がわからなくて、
困っているのです。ちい
子ちゃんは、
白い
新しいたびをはいているおばさんが、なんとなく
気の
毒になりました。
「おばさん、
待っていらっしゃい。」
ちい
子ちゃんは、あちらの
角にあった、たばこ
屋へ
飛んでいきました。そして、
川上という
家をたずねたのです。
「ああ、
川上さんですか。このごろ、
越してきた
方でしょう。こちらの
路地を
入って、つき
当たりの
家です。」と、たばこ
屋で
教えてくれました。
ちい
子ちゃんは、あちらに
立っていた、おばさんのところへ
飛んでいって、
知らせてやりました。
「お
嬢ちゃん、どうもありがとうございました。」と、おばさんは、
喜んで、いくたびも
頭を
下げました。
ちい
子ちゃんも、うれしかったのです。
往来へ
出ると、
人がたくさん
通っていました。
草花屋が、
手車の
上へ、いろいろの
草花の
鉢をのせて、「
草花や、
草花。」といいながら、
引いていきました。
どこを
見ても、もう、すっかり
春の
景色です。
教会堂のとがった
屋根が
見えていました。
神さまは 軒の
こすずめまで
おやさしく いつも 愛したもう
ちい
子ちゃんは、うたいながら、
教会堂まで
走っていくと、はや、お
説教が、はじまっていました。みんなが、
静かにしていますので、ちい
子ちゃんは、お
説教の
終わるまで、
外に
待っていようと
思いました。
ドアの
外には、
子供たちのげたが、ちらばっています。ちい
子ちゃんは、それを一つ、一つ、きちんとならべました。また、げたばこの
下に
投げ
出してあったスリッパを、
箱の
中へ
収めていました。
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