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なまずとあざみの話(1)
日期:2022-11-29 02:14  点击:289
 

なまずとあざみの話

小川未明


はるかわは、ゆるやかにながれていました。そのおもてに、ひかりはあたって、ふかく、なみなみとあふれるばかりの、みず世界せかいが、うすあおくすきとおってえるようにおもわれました。
この不思議ふしぎ殿堂でんどううちには、いろいろのうおたちが、おもしろおかしく、ちょうど人間にんげんうえ生活せいかつするときのように、棲息せいそくしていたのであります。なかでも、ちいさな子供こどもたちは、毎日まいにちれをなして、水面みずもかび、太陽たいようらす真下ましたを、縦横じゅうおうに、おもいのままに、金色きんいろのさざなみをてておよいでいました。そして晩方ばんがたきしくらいすみののあるところへかえってくると、自分じぶんおやたちや、またほかのうおたちに、てきたいろいろのことを物語ものがたったのでした。
おおきなふねがいったぞ。そのときは、おれたちは、なみなかきこまれようとした。やっといそいでほどへだたった、安全あんぜん場所ばしょけることができた。ふねうえでは、ほおかむりをしたおとこが、たばこをすっていた。」
「あちらのきしほうには、人間にんげんが、いくたりもながいさおをもっていったりきたりしていた。おとうさんや、おかあさんたちも、をつけんければならん……。」
あかあかとみずうえをいろどって、夕日ゆうひしずみました。みずなかは、いっそう、くらく、うるわしいものにおもわれました。このとき、ぎんのおぼんながしたように、つきらしたのです。
「おまえたちも、あんまり方々ほうぼうあそあるかないほうがいいよ。れると、やっと安心あんしんするのだ。わたしたちは、今日きょう無事ぶじ幸福こうふくに、おくることができたとおもうのだよ。」と、うおおやたちは子供こどもたちをまわしながらいいました。
「おとうさんも、おかあさんもおやすみなさい。」と、子供こどもたちはいった。
「みんなも、つかれたろうから、よくおやすみよ。」と、おやたちは、こたえた。そして、うおたちは、ふかみへじっとして、しずまったのであります。
このとき、ひとり、なまずのおばさんは、あななかからて、だれはばかるものもなく、おおきなくちけて、みずなかで、盲目めくらになって、まごついているむしどもをのみはじめたのでした。おばさんのあたまにさしているながい二ほんのかんざしは、つきひかりみずなかまでさしこんだので、気味悪きみわるひかったのです。
昼間ひるまは、いろいろなうおたちが、わいわいいっているので、うるさくてしかたがないが、よるわたし天下てんかだ。」と、なまずのおばさんは、おおきなくちでぱくぱくやりながら、へびのようにしなやかなをひらひらさしてあるいていましたが、そのうちに、すさまじいいきおいで、うなって、からだを四にもみ、ゆりうごかすと、いくたびもみずなか転動てんどうしながら、どこかへ姿すがたをかくしてしまいました。
物蔭ものかげから、このようすをていたうおがありました。そのうおたちは、ちいさなこえでささやいたのでした。
「まあ、どうしたのでしょう?」
「あのしゅうねんぶかい、おそろしいおばさんが、あんなにくるしんだのをたことがない。なんでも、おもいがけないてきのために、ひどいけがをしたのですよ。」
「それに、ちがいありません……。なんという物騒ぶっそうなことでしょう……。」
うおたちは、ますますちいさくなって、いきをひそめてじっとしていました。
かわのふちに、あざみがつつましやかにいていました。終日しゅうじつだれとはなしをするものもなくいていたのです。ただ、自分じぶん姿すがたみずおもてにうつるのと、おりおり、おともなくくもが、かげみずうえとしてぎてゆくのを、ながめたばかりでした。
あざみは、いてから、まだのないときでした。あるあさ一ぴきのなまずが、すぐしたに、きしのすみにしろはらしてくるしんでいるのをました。どうしたのだろう? と、あざみは、だまっていました。しかし、あかるく、みずおもてらしても、なまずは、おなじところになおったとおもうと、いつのまにか、またしろはらして仰向あおむいて、もだえていたのです。
「どうしたのですか?」と、あざみのはなは、ついにびかけました。
このとき、なまずは、なおったところでした。
「ゆうべ、人間にんげんにやられたのです。もうすこしでみずうえげられるところでしたが、やっといとってやりました。けれど、はりがのどにのこっていてくるしくてしようがありません。わたしは、もうながあいだ、このかわきてきましたが、こんどばかりはななければなりません。」と、うらめしそうにいいました。

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