あざみは、よく、なまずを
見ますと、なるほど、
年をとっていました。
小さな
魚たちが、
気味悪がっているおばさんは、このなまずであるかと、しみじみとながめたのでした。しかし、あざみは、いま、この
苦しんでいるなまずにたいして、
同情せずにはいられませんでした。
「ほんとうに、おいたわしいことでした。
私は、この
岸に
咲いて、あなたのお
苦しみなさるのを
見るばかりで、どうすることもできません。」といいました。
なまずは、また
白い
腹を
出して
倒れたが、やっと
力を
出して
起き
上がった。
「
私は、
人間をうらめしく
思います。この
深い
水底にすんでいる
私たちが、どんな
悪いことを
人間にたいしてしたでしょうか?」
なまずは、そういったことさえやっとでした。あざみは、なまずのいうことに、
耳をかたむけているうちに、
人間が、
自分を
毒々しい、
野卑な
花だといって、
足げにしたことを
思い
出しました。そのとき、
人間は、すみれの
花をかわいらしい
花だといってほめたのです。
「ほんとうに、いつ
私たちは、
人間にたいして、にくまれるようなことをしたか。すべてが
同じ
花だのに、なぜ
差別をつけなければならぬのか……。」と、あざみは、
思ったが、
口には
出さずに、
「あなたのおうらみなさるのは、もっともです。」といいました。
あざみは、なまずの
苦しみつづけた
最後を
見守りました。その
日の
晩方、なまずは、
白い
腹を
出したきり、もう
起き
直りませんでした。
小さな
魚たちは
遠くから、この
有り
様をながめていたが、
急いでこのことを
親たちに
告げるために、
姿を
消してしまった。
二、三
日たつと、あざみの
花は、
黒く
色が
変わってしまった。たまたま
飛んできたちょうが、これをながめて、
「この
花は、
病気だろうか?」といって、
止まらずに
飛び
去ってしまったのです。
なやみと、うれいのために、あざみの
花は、
黒くなってしまったのでした。
都からきた、
植物学者が、この
川のほとりを
歩きました。そして、
黒いあざみの
花を
見つけてびっくりしました。
「これは、たいした
発見だ。この
花に、おれの
名まえでもつけてやろう。」と、
喜んで、
根もとから、あざみの
花を
切ってしまった。
学者は、その
花を
帽子にさしました。もっとこのあたりをたずねたら、
新しい、
不思議な
植物が
発見されないものでもないと、
目をさらにして
歩いていました。
「なにか、
新しい
発見をして、
博士になろう。」と、
学者の
目は
希望に
燃えていました。
ちょうどその
後へ、
昨日のちょうが
飛んできて、
「あの
気の
毒な、
病気のあざみはどうなったろう。」と、みまったのでした。すると、むざんにも、だれにか、ちぎられてしまっていたので、ちょうは、あわれな
花の
運命に
同情せずにはいられなかったのです。
学者は、
都へ
帰るため
汽車に
乗っていました。あざみの
花を
散らさないようにと、
帽子にさしていたが、
窓によりかかっているうちに
居眠りをしました。
花は、もうまったくしおれかかっていたので、
風の
吹くたびに、
汽車の
窓から、
過ぎる
村々へ、
散って
飛んでゆきました。
原因不明の
軽い
熱病が、
村々へ
流行したのは、その
後のことです。しかし、
日がたつと、いつしかその
病気も、あとかたなく
消えてしまいました。
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