波荒くとも(2)
日期:2022-11-29 02:17 点击:291
二
町の
商店に、
女中をしているみつ
子は、ちょうどお
使いに
出て、
銀行の
前を
通りかかりました。
「あら、
小僧さんが、どうしたんでしょう。」
みつ
子は、
少年のたおれているところへきました。
見ると、その
顔色が
真っ
青になっています。そして、
苦しそうに
息をしていました。
「ねえ、
気分がわるいの?」と、
彼女は、
聞きました。けれど、
小僧さんは、なんとも
答えませんでした。
「
気分がわるいの?」と、
彼女は、こんど
耳もとへ
口を
近づけて、いいました。けれど、
小僧さんには、
答えるだけの
気力がなかったのです。
「かわいそうに、こんな
大きな
荷物を
負わせて、
寒いのに
働かすからだわ。」
「
重いのでしょう。
私、あんたといっしょにお
家へいってあげるわ。そして、ご
主人によく
話してあげますから、お
所をおっしゃい。」
こういった、
彼女の
目の
中には、いつか
涙がわきました。しかし、
少年は
意識がないのか、
返事がなかったのです。
「きっと、
病気なのかもしれない。それなら
早くお
医者に
見せなければ……。」
彼女は、
自分がお
使いに
出て、
主人の
待っていることも
忘れていました。
みつ
子は、このことを
交番に
届けなければならぬと
考えました。さっそく
交番の
方へ
走っていきました。
彼女のいうことを
聞いた、
巡査さんは、
「
朝飯を
食べずに
出て、つかれたのではないか。」と、
軽く
想像しました。
「いえ、
顔色が
青く、たいへんに
苦しそうです。」と、みつ
子はいいました。みつ
子は、
今年十六になったのです。
「いくつぐらいの
子供かね。」と、
奥の
方にいた、もう
一人の
巡査が、たずねました。
「十三、四の、まだ
小さい
子供です。」
彼女は、こう
答えると
目頭が
熱くなりました。
自分の
弟の
姿が
浮かんだからです。
「
急病かな。」と、その
巡査さんは、すぐに
起ち
上がって、
交番から
出ました。
彼女は、
銀行の
前へその
巡査さんを
案内しました。このときは、すでに四、五
人も
小僧さんのまわりに
立っていました。
巡査さんは、
小僧さんの
顔をのぞきこむようにして、なにかたずねていたが、
少年の
言葉は、そばにいるものにさえ
聞きとれませんでした。
巡査さんは、ふいに
顔を
上げて、
左右を
見まわしながら、いいました。
「だれか、
手をかしてくれませんか。
病人を
交番までつれていくのだが。」
「よし、おてつだいしましょう。」
労働者ふうの
男と、
勤め
人ふうの
若者が、
前へ
出ました。
労働者は、
少年の
負っているお
菓子の
入っている
箱を、
勤め
人は、
自転車を、そして、
巡査さんは、
小僧をだくようにして、つれていきました。
みつ
子は、もうこれでだいじょうぶだと
思って、
銀行の
前からはなれたのです。
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