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南方物語(2)
日期:2022-12-03 23:59  点击:271
 


北方人ほっぽうじんには、しま景色けしきが、いつまでものこっていました。また、つばめが、たくさんこのしまにすんでいたこと、しまひとたちが、みずから、そのしまをつばめのしまといっていたこともわすれることができませんでした。
こうして、三にんったふねは、かぎりない、あおうみいこまれるごとく、あてもなくただよいはじめたのです。しま人々ひとびとが、どちらに太陽たいようてゆくときは、どの方向ほうこうへゆくということをおしえてくれたので、それをただ一つのたよりとしました。
しかし、きたかえたびも、無事ぶじではありませんでした。一ぺんにもひとしい、たよりないふねは、ある、またかぜのためにながされて、らぬ他国たこくきしけられたのでした。そして、そのくにひとたちは、しま人々ひとびとのように、しんせつではありませんでした。三にんは、さっそくかねこまったのでした。につけているもので、って金目かねめになるようなものはなにもありません。このとき、一人ひとりは、しまむすめからもらったボタンにがつきました。
「おい、兄弟きょうだい、なんともいえないきれいなボタンだが、これはかねにならないものだろうか。」
こういうと、二人ふたりは、あたまをかしげました。
「そうだな、たいしたかねにもなるまいが、ひとつせてみようか。」といいました。
それから、まちあるきまわって、いろいろめずらしいものをみせにはいって、そのボタンをせたのです。すると、主人しゅじんらしいおとこが、その六のボタンをにとって、じっとながめていましたが、
「いくらでるか。」といってきました。
にんは、自分じぶんたちは、かぜながされて、こんなにとおくきたことをはなしました。それで、故郷こきょうかえ旅費りょひにでもなればいいということを――こころのうちでは、そんなになるとはおもわなかったけれど――いったのでありました。
「いくら、おようらないが、せいいっぱいにいただいて、金貨きんか五つとならおえいたします。」と、主人しゅじんはいいました。
かれらは、ほんとうに、おもいもよらぬかねになったとよろこびました。それで、ボタンをって、自分じぶんたちの故郷こきょうをさして旅立たびだったのであります。それからまた幾日いくにちかのあいだくるしみました。そして、ついにかれらは、なつかしい故郷こきょうかえって、兄弟きょうだいや、おやたちのかおることができたのでした。
「あのボタンは、なんだったろう。」
にんは、いまからかんがえると、あれが、普通ふつうかいではなかったようながしました。そして、あのしまのことをおもうと、まったく、ゆめのような、ふしぎながします。うつくしいむすめたちも、しんせつなしまひとたちも、木立こだちも、あのあか燈台とうだいも……。
「もう一、あのしまへいってみたいな。」
にんは、かおると、そのときのことをかたりあって、とおみなみうみ空想くうそうしました。そして、はるになって、つばめがんできたとき、
「あのしまからきたのだ。つばめのしまからきたのだ。」といって、このりこうなとり歓迎かんげいしました。
まちひとたちは、三にんから、つばめのしまはなしいて、そんな、いいところが、この世界せかいのどこかにあるのかとおもいました。
「つばめは、幸福こうふくってきたのだ。」といって、どこのいえでも、自分じぶんいえのなかにをつくってくれるようにとのぞんだのです。こうして、いつということなしに、つばめは北方ほっぽうんでいけば、人間にんげん自分じぶんたちを保護ほごしてくれるものでこそあれ、けっしてがいくわえるものでないことをったのであります。
なつのおわりになると、つばめは、きたからみなみへと、紫色むらさきいろのつばさをひろげて、かえってゆきました。
ふゆのない南方なんぽうは、まだ真夏まなつであります。みずうみみずは、ぎんのごとく、ひかり反射はんしゃしていました。片方かたほうは、たかいがけになって、ちょうどとされたように、あかはだをしずかなみずおもてにうつしていました。
そのがけの半腹はんぷくに、まるいあなをうがって、一家族ひとかぞくのつばめは、をつくりました。そして、どもを、あなのなかみそだてていました。
あるおやつばめは、そのあなのなかからて、湖水こすいうえのようにかけてゆきました。ちょうど、そのとき、あのしげみに、一のかわせみが、しょんぼりとしてたたずんでいたが、あたまうえとおりかかるつばめをると、きゅうこえをかけて、めました。
つばめは、何事なにごとかとおもって、りると、一ぽんつよそうなあしにまったのであります。
「どうなさったのですか。」と、快活かいかつに、つばめはたずねました。
おとうとはどうしたのでしょう、まだかえってこないのですが、あなたは、ごらんになりませんでしたか。」と、かわせみは、心配しんぱいそうにいたのであります。
つばめは、いまそのことをおもしたように、うなずきながら、
「それは、たかやまに、いつもゆきのあるきたくにまちでした。あるわたしんでいますと、一けん薬屋くすりやのガラスのはまったみせさきに、めずらしいとりのはくせいがありました。わたしは、おぼえのあるようながしたが、そのときは、いそいでいましたので、よくそれをませんでしたが、あれは、あなたのおとうとさんではなかったようです。きっと、そのうちに、かえっておいでになりますよ。」と、なぐさめるようにいいました。
かわせみは、うらやましそうに、つばめを見上みあげながら、
「あなたたちは、どこへいっても、人間にんげんにかわいがられて、おしあわせですこと。」と、感嘆かんたんいたしました。
つばめは、それをすように、ばたきをして、おしゃべりをはじめました。
きたくにでは、そうでありましても、こちらへきては、なかなか油断ゆだんがなりません。へびがどもをねらっていますから。」とこたえました。
かわせみは、すばしこくみずうえをいったり、きたりしながら、
「こんどのは、なかなか安心あんしん場所ばしょじゃありませんか。それに、のまわりのえだには、毛虫けむしがたくさんついていますから、そんなにとおくまでいってえさをおさがしなさらなくてもいいかとおもいます。」
「かわせみさん、そこが、わたし用心深ようじんぶかいところなんですよ。だれもすぐあなのまわりに、わたしたちのきな食物しょくもつがあるとおもうでしょう。わたしが、それをらないのは、のありをかくすためです。こういう秘密ひみつも、なかのいいあなたにだけおおしえするのですよ。」と、つばめは、さも、じまんそうにいいました。そして、ったのであります。
あなにいたつばめは、ははつばめのあとをしたいました。もう、はあいていたから、チイ、チイといて、あなのぐちまではいて、おかあさんのゆるしなしに、あかいほおをしてそと世界せかいをのぞいたのです。
きらきらとした、うつくしいみずが、したにあふれていました。そして、すぐあなのまえあおのついているえだに、自分じぶんたちのきな、いつも母親ははおやが、どこか遠方えんぽうからってきてくれるのとおなじい毛虫けむしが、うようよとしてうごいているのをました。
「これは、どうしたというのだろう? おかあさんはこれをらないのか?」
つばめたちは、くびをのばして、あらそってそれをとろうとしました。そして、つぎの瞬間しゅんかんに、みんな湖水こすいなかちておぼれてしまいました。
おやつばめは、まだそれをりませんでした。
りこうで、幸福こうふくとりとしてられているつばめらも、みなみほうかえると、こうしたおもわぬわざわいにかかることもあったのです。
 

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