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野菊の花(2)
日期:2022-12-04 08:12  点击:230
 


しろいシャツに、しろ帽子ぼうしをかぶって、あおくるまいた青年せいねんが、あちらからはしってきました。たるみちには、ほかに人影ひとかげもなかったのです。
「あっ、牛乳屋ぎゅうにゅうやさんだ。」
牛乳ぎゅうにゅうってくれるかしらん。」
二人ふたりは、そのほうをじっとながら、さきやきました。
牛乳屋ぎゅうにゅうやさん!」と、清吉せいきちは、はしってちかづきました。
「おちちをちっとばかし、ってくれない?」
「なににするんだい。」
いぬにやるんだよ。あすこのはらっぱに、まれたばかりのいぬころが、おなかがすいていているのだ。」
「ちっとばかしでいいんだねえ。」と、ゆうちゃんは清吉せいきちかおながら、おさらを牛乳屋ぎゅうにゅうやさんのまえしました。
かじぼうにぎったまま、二人ふたりていた青年せいねんは、
「ここには、余分よぶんがないから、おみせへいってきいてごらん。」と、こたえました。
「おみせってどこなの。」
「ここをがって、ずっといくとやぐらがあるだろう。そのまえ花屋はなやよこはいったところだ。」
牛乳屋ぎゅうにゅうやさんはいそがしそうに、いいのこして、また威勢いせいよくはしっていきました。小石こいしうえはこがおどるようです。ふりくと、ほこりがかぜかれていました。
二人ふたりおしえられた牛乳店ぎゅうにゅうてんへいきましたが、みせさきに、西日にしびたってテーブルのうえには、新聞しんぶんひろげられていました。そして片方かたほうのたなにはきびんがずらりとならんでいました。
牛乳ぎゅうにゅうを五せんくださいませんか。」と、清吉せいきちがいいました。
みせにいた、おかみさんが、
「いま、ちっともないのですが。」といって、ことわりました。
二人ふたりは、たぶんそんなことだろうというようなもしたので、格別かくべつおどろきも、力落ちからおとしもしませんでした。
ぼくかえったら、あかちゃんにやるのを、ちっとばかしけてもらってくるよ。」と、ゆうちゃんが、いいました。
「この五せんで、ビスケットをってやろうか。」と、清吉せいきちは、あたりのみせながら、あるきました。
そのころ、牛乳ぎゅうにゅう配達はいたつする箱車はこぐるまいた青年せいねんは、しろのことをおもしていました。
かれ少年しょうねんで、まだ田舎いなかにいるとき、むらしろという宿無やどないぬがいました。やせたあまりおおきくないめすいぬであったが、宿無やどないぬというので、そのいぬがお勝手かってもとへくると、どこのいえでもみずをかけたり、いしげつけたりしました。やさしいかおでもして、いぬがいつくのをおそれたからです。つえをつかなければあるけないようなばあさんまでが、みょうなかっこうをして、そのつえでいぬをたたこうとしました。またそと仕事しごとをしているじいさんでさえ、「こいつめ。」とか、なんとかいって、いしひろってげつけました。
あるとき、そのいぬが、どこかの物置ものおき子供こどもむと、そのいえひとたちは、みんなそのかわながしてしまいました。
しろは、人間にんげん無慈悲むじひにとうとうくるって、ようすのわったひとると、かみつくようになり、ごとに子供こどもおもしては、かなしいこえさけびました。
そのいたましかった光景こうけいが、少年時分しょうねんじぶんかれこころきざみつけられて、いまでもわすれないのであります。
青年せいねんは、二人ふたり子供こどもが、子犬こいぬのために牛乳ぎゅうにゅうさがしている、やさしいこころをいじらしくおもわずにはいられませんでした。
「おや、まだ、みんみんが、いているね。」
このあいだのあらしのよる、まったくきかれなくなったので、ゆうちゃんは、かおげて、はらっぱのそらまわしていました。
「きっとおそくまれたんだよ。おともだちがいなくてさびしいだろうな。」と、としちゃんが、おそくこのたみんみんに同情どうじょうしました。
「あっちのもりほうだな。」
そういったきりで、またみんなのは、小犬こいぬうえまりました。小犬こいぬは、清吉せいきちゆうちゃんのってきたビスケットををふりながらべていました。その姿すがたは、正直しょうじききよらかなこころ少年しょうねんたちをうごかして、いっそうかわいそうなものにおもわせたのです。
「どれ、どんないぬだい。」
そこへ、牛乳ぎゅうにゅうのびんをってやってきたのは、先刻さっきくるまいていた青年せいねんでした。
「ポインターのまじりだね。さあ、これをやろう。」
青年せいねんはしゃがんで、さらのなかへ、しろいとろとろとしたおいしそうなちちをびんからうつしました。雑草ざっそうあいだに、一りん紫色むらさきいろ野菊のぎくいていたが、そのきよらかなで、これを見守みまもっているようにおもわれました。
 

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