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羽衣物語(1)
日期:2022-12-04 08:15  点击:275
 

羽衣物語

小川未明



むかしは、いまよりももっと、まつみどりあおく、すないろしろく、日本にっぽん景色けしきは、うつくしかったのでありましょう。
ちょうど、いまから二千ねんばかりまえのことでありました。三保みほ松原まつばらちかくに、一人ひとりわか舟乗ふなのりがすんでいました。あるあさのこと、ひがしそらがやっとあかくなりはじめたころ、いつものごとくふねそうと、海岸かいがんをさして、いえかけたのであります。
まだ、おちこちのもりのすがたは、ぼんやりとして、あたり一めんはたけには、しろいもやがかかっていたけれど、早起はやおきのうぐいすや、やまばとは、もうどこかでほがらかにいていました。そうして、あちらのそらには、富士山ふじさんが、神々こうごうしく、くっきりとかびあがってえました。
これをあおぐと、若者わかものは、つつましげにえりをただして、わせながら、
「どうぞ、今日きょうわたしのからだに、けが、さいなんなく、おかげで、しあわせにくらせますように。」と、いいました。
こういのりをささげると、なんとなくこころがすがすがしく、もちもはればれとして、しぜん、ふみあしちからはいりました。
このとき、どこからともなく、ぷんとまつのにおいがしました。いつのまにか、松原まつばらへさしかかっていたのであります。あいだから、びょうびょうとしてえるうみいろ、おだやかななみのうねり……。大海原おおうなばらは、まだよくねむりからさめきらぬもののようでした。
「おや。」といって、若者わかものはとつぜん、あゆみをとめました。なぜなら、いくぶんもやのうすれかかったまえほうに、ふしぎなものがにとまったからです。なんだか、まぶしいものが、一ぽんまつえだにかかっていました。いままでたこともないようなものです。
ながとりかしらん。それにしては、なんときれいな、おおきなとりだろう。」と、若者わかものは、をみはりました。
とりがとまっているのなら、ちかづけばげるだろうと、ちゅうちょしつつ、若者わかものは、じっとようすをうかがいましたが、さらに、つけはいがなかったのでした。そうして、かぜにひらひらとゆれるのをると、うすい着物きもののようにもおもわれました。
「とにかく、いってとどけよう。」と、若者わかもの用心ようじんしながら、一足ひとあし一足ひとあし、それへちかづいたのです。
ひくくたれさがったまつえだにかかっているのは、はたして、かがやかしい、すきとおるような、おんな着物きものでありました。はなれてると、まぶしいひかりをはなち、にじのかかったようでありました。かすみをったようにもおもわれるのでありました。
「いったい、この着物きものは、だれのものであろうか。」
若者わかものは、あたまをかしげ、思案しあんにくれました。
松原まつばらなかは、しんとして、ときどき、小鳥ことりごえこえるくらいのもので、あたりをまわしても、まったくひとのいるようなはしませんでした。
若者わかものは、はじめてるものだけに、さわるのがおそろしくもあれば、また、あまりきれいなので、をつけてはわるいようなさえしましたが、ついに、ものめずらしさのあまり、勇気ゆうきして、自分じぶんり、つくづくとながめたのでした。
「これは、人間にんげんなどのるものでない。天上てんじょうたかく、わしかたかが、どこからかくわえてきて、ここへかけていったものだろう。なんにせよ、またとがたい、とうといものだ。こんなたからはいるとは、なんという自分じぶんしあわせものではないか。むらひとたちにせたら、さぞ、うらやむことだろう。」と、若者わかものは、ほくほく、よろこびました。
その着物きものをおしいただいて、いまやそこをろうとしたときであります。うしろへちいさな足音あしおとがして、すずをふるような、さわやかなこえで、
「もし、もし。」と、びかけたものがありました。
おどろき、ふりくと、若者わかものは二びっくりしました。なぜなら、そこにはのさめるような、うつくしいおんなひとっていました。
「それは、わたし着物きものでございます。どうぞ、おかえしくださいまし。」と、そのうつくしいひとはいいました。

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