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はたらく二少年(2)
日期:2022-12-04 08:18  点击:302
 
だまってケーはなしをきいていたエヌは、たばこのがきえたのもらなかった。
「だれにも、にたようなはなしはあるのかな。それで、くるしいなかおもっても、なおきようとするのは、いつか、いい人間にんげんにめぐりあえるようながして、うつくしいゆめがもてるからですね。」
エヌは、こうこたえて、上着うわぎのかくしから、なにかとりだしました。それは、ぬぐいにつつんだかがみのかけらでした。
「きみ、それは、どうしたの。」と、ケーがきいた。
「あすこで、ひろったのです。ケーさん、このまちはわたしにおもがふかいんです。」と、こんどはエヌが、そのわけをケーはなしてきかせたのです。

わたしは、おふくろがなくなったのち、どうすることもできず、おなじ長屋ながやにすんでいた、あんまさんのところで、せわになりました。わたしの仕事しごとというのは毎日まいにち親方おやかたいて、あのまちかどのところへくることでした。そして、親方おやかたが、しゃく八をふくあいだついていて、とおりかかるひとが、おかねをくれるのをもらったのでした。戦争前せんそうまえは、あすこにおおきくてりっぱなカフェーがありました。
なつ午後ごごのこと、きゅうにそらがくらくなってかみなりがなり、あめがふりだしました。
夕立ゆうだちだから、じき、はれるだろう。」と、親方おやかたはいって、二人ふたりはカフェーの、のきしたへはいり、たたずんでいました。すると、ぴかりぴかり、いなずまのするたびくろもりや、でこぼこの屋根やねが、うきあがってえるかとおもうと、地球ちきゅうをひきさくようなすさまじい、かみなりおとがして、わたしはふるえながら、親方おやかたをひっぱって、もっとドアにちかをよせようとしました。そうすればたきのようにふるあめが、かろうじてよけられるからです。
このとき、とつぜんドアがあきました。ると、うすべにいろながいたもとの着物きものをきた女給じょきゅうさんが、ぱっちりしたをこちらへむけ、二人ふたりながら、
「そこではぬれますから、はやなかへおはいんなさい。」と、いってくれました。
あたまからかおまでぬらしながら、親方おやかたは、ただもじもじしていると、そのねえさんは、わたしのをとらんばかりにすすめたので、二人ふたりは、つい、すいこまれるごとく、ドアのなかにはいりました。そして、わたしはまれてはじめて、こんなにうつくしく、かざりたてられた、たてもののなかたのです。ふだんは、かぜのふきすさぶたてもののそとって、五しきにかがやくネオンをながめながら、なかからもれる、たのしそうな音楽おんがくこころのうきたつようなうたにききほれるだけで、煉瓦れんがのかべをへだてて、そこには、どんな世界せかいがあるのか、想像そうぞうすることもできなかったのでした。
「すこし、おかけなさいな。」と、ねえさんがいってくれたので、二人ふたりは、かたすみのほうにあった、テーブルのわきへ、こしをかけました。
まだ、たくさんのうつくしいおねえさんたちが、ったりかけたりしていました。わたしは、どこから、こんなうつくしいひとばかりあつまってきたのかと、ふしぎにおもいました。わたしが、をみはっていると、また、さっきのおねえさんが、きて、
「わたしにも、ちょうど、あんたぐらいのおとうとがあるのよ。さあ、ひとつですけれど、おあがんなさい。」と、いって、かみにのせて、おかしをくれました。親方おやかたしゃく八をにぎりうなだれていたが、それにづくと、わたしにかわって、れいをいってくれました。
しばらくすると、かみなりあめも、わすれたようにやみました。二人ふたりが、そとるころは、だんだん、きゃくがたてこんで、あちらでも、こちらでも、わらごえがきこえ、それとまじって、グラスのふれあうおとがしました。
あのときから、何年なんねんたったであろうか、戦時中せんじちゅう空襲くうしゅうで、このあたりは野原のはらになってしまいました。きょう、カフェーのあとで、このかがみのかけらをつけて、ひろいあげると、おりからそらにあらわれたあかくもがうつって、わたしは、おねえさんのすがたをおもいだしたので、記念きねんにしようとポケットにれたが、かんがえれば、やはりつまらんことですね。

と、エヌはいって、そのかけらをみちばたになげすてました。
ケーはこのはなしをきくと、なんとなくエヌを、他人たにんのようながしなくなった。そして、はやくからおやをなくしたというものは、すこしかわいがってくれるものがあれば、こんなにもこいしくおもうものかと、つくづくかんじたのでした。
「そうさ。むかしのゆめなんか、なんにもならんよ。ふきとばして、希望きぼうをいだいてつよきぬこうぜ。ぼくたちは、もうはたらけるとしになったんだもの、だれからも、ばかにされない。これから、おたがいにちからになろうよ。」と、エヌをはげますようにケーはいいました。
「ああ、ゆかいだ。きみと、どこへでも、いっしょにいきましょう。」と、エヌケーをにぎると、ケーもまたかたくにぎりかえしました。

かれこれ、やす時間じかんが、きれたとみえます。あちらから、トロッコのはしってくるおとがしました。すると、一どうちあがった。二人ふたりも、また、元気げんきにシャベルをもちました。
 

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