ポチはみんなのすがたを
見ると、とんできました。そして、いきなり
勇ちゃんにとびついて
勇ちゃんの
顔をなめたりしました。
原っぱへいくと、ほかにも
子供たちがいて、きちきちばったを
追っていました。また、ほかの
女の
子は、じゅず
玉を
取ってくびかざりなどをつくっていました。
「
私、じゅず
玉がほしいの。
勇ちゃんとってくれない?」と、
光子さんが
勇ちゃんのいるところへきて、いいました。
勇ちゃんはきちきちばったを
捕らえて、
指のあいだにはさんでいました。
「
光子さん、じゅず
玉がほしいの? たくさん
取ってあげるから、こんどタマをいじらせてくれる?」と、ききました。
光子さんは、
勇ちゃんがねこをいじるのはしつこくてかわいそうだけれど、いじめるのではないから、「うん。」といって、
承諾しました。
「じゃ、このきちきち
持っていておくれ。」といって、ばったを
光子さんにわたして、
自分は
草むらの
中にはいりました。
ポチが、まっ
先になってとびこみました。
光子さんは、こちらにぼんやりと
立って、
勇ちゃんがじゅず
玉の
茎を
折ってくるのを
待っていました。
年ちゃんやよし
子さんは、あちらでまりぶつけをしていました。
青い
海のような
空には、
白い
雲がほかけ
船の
走るように
動いていました。
このときです。
「あいた!」と、ふいに
勇ちゃんのさけぶ
声がしました。
「どうしたの?」と、
光子さんは
顔色をかえて、
自分も
草むらの
中にかけよろうとしました。
勇ちゃんは
片手にじゅず
玉の
茎をにぎり、
片手でほおをおさえて
泣かんばかりにして
出てきました。
「はちにさされた!」といって、
目からなみだを
出しました。
「はちに?」
光子さんは、わるかったと
思いました。
「
勇ちゃん、かんにんしてね。」といって、
光子さんはわびました。
自分がじゅず
玉を
取ってくれとたのまなければ、
勇ちゃんは、はちになんかさされなくてもすんだのだと
思ったからです。
勇ちゃんは、じゅず
玉のなっている
枝を
光子さんにわたすと、きちきちばったをうけ
取って、
「お
母さんに、お
薬をつけてもらうから。」といって、
走ってお
家へかえってしまいました。
光子さんは、きゅうにつまらなくなって、じゅず
玉の
枝をひきずるようにしてお
家へかえりました。じゅず
玉の
実は、
銀色に、むらさき
色に、さながら
宝石のように
光っていました。
お
家へかえってから、
梅の
木のはちを
見ると、ひとりぽっちで
巣をつくっていたはちとおなじなはちが
勇ちゃんをさしたのだと
思うと、きゅうに、はちにたいする
同情がうすくなったけれど、また、そのしおらしいすがたを
見ると、
「お
家のはちは、かわいそうなのよ。」と、ひとり
言をして、
光子さんはそのはちを
見まもっていました。
「これは、きっと、お
母さんばちにちがいないわ。」と
思うと、
光子さんの
目の
中からしぜんにあついなみだがこぼれおちたのです。
二、三
日たって、
勇ちゃんは
木戸口から、「
光子さん!」といって、
遊びにきました。
まだ、ほおがいくらかはれていました。そのうちに、
勇ちゃんは
梅の
木のはちの
巣を
見つけました。
「あ、はちが
巣をかけているよ。」といって、
勇ちゃんは
梅の
木見あげながら
小さな
太い
指でさしました。
光子さんは、
胸がどきどきしました。「さあ、たいへんだ!」と
思ったからです。このあいだの
怒りもあって、
勇ちゃんはきっと、このはちの
巣を
取るにちがいないと
思いましたから、
光子さんがおどろいたのもむりはなかったのです。はたして、
勇ちゃんはあたりを
見まわして、なにか
棒がないかとさがしていました。
「ねえ、
勇ちゃん、このはちは、ひとりぽっちでかわいそうなのよ。」と、
光子さんはあわれっぽい
声で、いいました。
「ひとりぽっちなの?」と、
勇ちゃんは、ふしぎそうにききかえしました。
「え、そうなの。二
匹でいたのが、一
匹いくら
待っても、もうかえってこないの。」と、
光子さんは
答えました。
「ほんとう、どうしたんだろうな。」と、
勇ちゃんは
目をまるくしました。
「いたずらっ
子に
殺されたのか、わるいくもの
巣にかかったんだろうって、お
母さんがおっしゃってよ。」
勇ちゃんはなんと
思ったか、だまって、たった一
匹巣に
止まっているのを
見ていましたが、
「かわいそうにね。」といって、きゅうに、はちをいたわるようにながめていました。
「まあ、よかった! やはり
勇ちゃんはやさしい。」と、
光子さんは
心の
中で
思いました。
「
勇ちゃん、あんまりタマをいじめちゃいやよ。」といって、
光子さんは
奥から
子ねこをだいてきました。
勇ちゃんは、にこにこして
両手を
出していました。
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