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花と少女(1)
日期:2022-12-05 23:59  点击:279
 

花と少女

小川未明


あるのこと、さちは、まち使つかいにまいりました。そして、ようをすまして、かえりがけに、ふと草花屋くさばなやまえとおりかけて、おもわずまりました。
ガラスうちをのぞきますと、あかはなや、あおはなや、しろはなが、みごとに、いまをさかりとみだれていたからです。
まだ、はるにもならなかったので、そとには、さむかぜが、しきりにいていました。しかし草花屋くさばなや温室おんしつには、スチームがとおっているので、ちょうど五、六がつごろのあめのかかったように、しずくがぽたりぽたりとガラスおもてつたわって、したたっているのでした。
これらのはなは、いずれも、もとは熱帯地方ねったいちほうからきたので、こんなさむいときには、かないものばかりでした。太陽たいようが、もっとちかく、そして、かぜがやわらかになり、あたたかくならなければ、はたけにはかないのでした。
さちは、とびらけて、その草花屋くさばなやうちへはいりました。すると、ヒヤシンスや、リリーや、アネモネや、そののいろいろな草花くさばなからはっする香気こうきがとけって、どんなにいい香水こうすいにおいもそれにはおよばないほどのかおりが、きゅうに、かおからだおそったのでした。
彼女かのじょは、しばらく、ぼうっとして、心地ごこちになってしまいました。なにか、自分じぶんきなはなってかえろうとおもいました。そして、どのはながいいだろうと、みまってあるいていますうちに、彼女かのじょは、そばのびんのなかにさしてあった、あかと、しろの二しゅのばらのはなつけたのでした。
そのばらのはなは、のついていないばなにしかすぎませんでした。けれど、そのはなからはなにおいは、このなかのすべてのはなからはっするにおいよりは、ずっとたかく、よかったのであります。
彼女かのじょは、あかいばらのいろると、なんとなくつようなおもいがしました。
「どうか、このはなをくださいな。」と、彼女かのじょは、花屋はなや主人しゅじんにいったのです。
主人しゅじんは、そばにやってきて、
あかしろと二ほんでございますか。」と、たずねました。
彼女かのじょは、
「ええ、そうです。」と、うなずきました。
主人しゅじんは、よくいた、花弁はなびらとさないように、注意深ちゅういぶかく、二ほんのばらをきながら、
「これは、まだ、はやいからおたかいのですよ。」と、ねんして、それをかみいてくれました。
さちは、二ほんのばらのがあまりたかいのでびっくりしました。けれど、いまさら、どうすることもできないようながして、財布さいふなかのおかねをほとんどからにしてったのでありました。
さちにいさんは、が、たいそう上手じょうずでありました。よく、いろいろなかたちをしたつぼに草花くさばなけて、それを写生しゃせいしたものであります。さちは、よくそれをおぼえています。
にいさんが、うちにおいでたら、どんなたかはなってかえったっていいけど、にかくのでもないのに、こんなにたかはなってかえったら、おかあさんにしかられはしないだろうか?」と、彼女かのじょは、草花屋くさばなやると心配しんぱいしたのであります。
往来おうらいると、かぜきすさんでいました。それは、温室おんしつなかで、さむさをらずにいたはなにはたえられないことでした。
さちは、なるたけ、さむかぜを、ばらのはなにあてないように、みちあるいてきました。いつしか、まちはずれ、さびしいみちにかかりますと、いままでよりいっそう、かぜは、荒々あらあらしく、つよく、いていました。
たかや、やぶの雑木ぞうきなどのえだが、ふるえています。そして、ひとしきりいてきたかぜ彼女かのじょは、からだでもって、はなをかばおうとしたはずみに、はないてあったかみんで、あかしろはなは、むざんに半分はんぶんばかり、花弁はなびらってしまったのでありました。

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