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花と少女(2)
日期:2022-12-05 23:59  点击:279
 
さちは、どんなに、しいおもいをしたでしょう。せっかく、ってきたものを、名残なごりもなくらしてしまっては、それこそ、おかあさんに、しかられてももうしわけがないとおもいました。
彼女かのじょは、半分はんぶん花弁はなびらのこっている、二ほんのばらのはなって、しおしおとちからなく、うちかえってきました。
さちは、ありのままを、おかあさんに、はなしました。すると、おかあさんは、しかりなされるとおもいのほか、かえって、さちをなぐさめなさいました。
「それは、ほんとうに、おしいことをしましたね。そのえだてるのもおしいから、つちにさしておいてやりましょう。」といわれました。
かあさんは、二ほんのばらのえだを、まえ垣根かきねきわにさしながら、
「どうか、がつけばいいがね。」といわれました。
さちは、もし、この二ほんのばらが、がついていたらどんなに、うれしいだろうとおもいました。しかし、それは、いつのことだろう? とかんがえられたのであります。
ふゆぎて、はるになったとき、二ほんのばらのえだにはちいさな弱々よわよわしいがでました。そして、それは、なつになってもれはしませんでした。
「おかあさん、あのばらは、がついたのでないでしょうか。」と、さちはいいました。
かあさんも、おりおりは、垣根かきねきわにいって、それをていなされたので、
「いえ、まだわかりません。一ねんたってみなければ……。」といわれました。
さむふゆが、めぐってきましたけれど、ばらには、あかちいさなて、れるようすはなかったのです。そして、あくるとしはるには、二ほんのばらとも、ちいさなえだをつけたのでありました。
「さちや、二ほんのばらは、がついたよ。もうだいじょうぶだから、大事だいじにしておき、そして、肥料ひりょうをすこしずつやるといい。今年ことしは、だめだろうが、来年らいねんはなくかもしれません。」と、おかあさんはいわれました。
さちは、大事だいじにして、ばらの手入ていれをいたしました。ちょうど、三ねんめのはるわりころに、一ぽんのばらにだけ、一つつぼみがつきました。さちは、どんなによろこんだかしれません。
「おかあさん、つぼみが一つつきましたよ。」と、ははらせました。
あかいほうだろうか、しろいほうだろうか……。」と、おかあさんはいって、きてながめられました。さちも、それは、どちらであったかよくわからなかったのです。
なつのはじめのころに、一ぽんのばらに、しろゆきのようなはなきました。そのはなは、さちが、草花屋くさばなやで、ばなったときのはなよりも大輪だいりんで、香気こうきたかかったのであります。
そのはないた、ちょうど、そのころでありました。ある月蝕げっしょくがあったのです。
初夏しょかばんで、よいのことでした。みんなは、そとて、つきをながめていました。おだやかな景色けしきで、かぜもなく、みみずがねむそうにうたをうたっていました。たった一ついたばらのはなが、うすやみそこからかおって、いい香気こうきをあたりにただよわせていました。
このとき、あちらから、たましいをさらっていってしまいそうな、かなしい、またよろこびのためにうきたちそうなこえで、なにやらのうたをうたいながらくるものがありました。
さちは、すべてをわすれて、じっとそのほう見守みまもっていますと、あちらの往来おうらいあるいて、すぐうちまえほうへやってきました。ると、かみながい、青色あおいろふく青年せいねんでありました。そのかおは、はっきりしませんでしたけれど、そのわかやかな、みわたるこえからして、ほぼ想像そうぞうされたのでした。
青年せいねんは、このうちまえにくると、ふいにまりました。そして、あたりをまわしました。
「ああ、いいにおいがすること。どこに、そんなはないているのだろう?」と、あしもとにをくばりますうちに、垣根かきねきわに、しろく、ほんのりといているばらをつけました。
「このはなを、わたしに、くださいませんか。」と、青年せいねんは、さちねがいました。けれど、そのはなはさち大事だいじな、大事だいじはなでありましたから、
「たった一つしか、いていないのです。あなたにあげることはできません。」と、彼女かのじょは、ことわりました。
もし、そのはなってあたえたら、二と、そのはなくことがなかったからです。それほど、えだは、ほそく、ちいさかったのです。
青年せいねんは、あちらへいってしまいました。ふたたびかなしい、たましいまでさらっていってしまいそうな、にしむうたこえがきこえました。ちょうど、つきがかけて、くらくなったのであります。
その、さちは、いくたびこのよるのことをおもったかしれません。そして、あのとき、青年せいねんにばらのはなをやったほうがよかったか、やらないほうがよかったかとまどったのです。それほど、青年せいねんのうたったうたこえが、にしみてれなかったのです。
さらに、二ねんめには、あかはなも、しろはなもみごとにひらきました。そして、そのはなさかりのころ、にいさんがみやこからかえってきました。
にいさんは、ばらのはなると、たいそうよろこびました。さちは、にいさんをよろこばしたのを、なによりかうれしくおもったでありましょう。そして、はじめて、まちからこのはなってきたときのかなしいおもなどにふけらせられたのです。
ある黄昏方たそがれがたにいさんは、そとからうたをうたってかえってきました。さちは、このうたをきくと、ぶるいするようながしました。
にいさん、なんのうたですか。」と、ききました。いつかの青年せいねんがうたっていたうただったからです。
「これは、牧人ぼくじんうたなんだよ。」と、にいさんはこたえました。
さちは、あおふく青年せいねん姿すがたえがきました。そして、そらあおいで、いつまた月蝕げっしょくに、そのひとと、めぐりあうことがあろう? というような、はかないおもいにしずんだのでありました。
 

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