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花の咲く前(2)
日期:2022-12-05 23:59  点击:281
 


子供こどもたちは、んである砂利じゃりうえのぼったり、ばこうえにすわったりして、紙芝居かみしばいのおじさんをいていました。自転車じてんしゃうえちいさなはこ舞台ぶたいなかには、見覚みおぼえのあるあかトラのていました。七、八にん子供こどもがあめをわなければ、おじさんは、説明せつめいをはじめないのがつねでありました。
「まだはじめないかなあ。」と、ちくたびれて、いっている子供こどももありました。
自転車じてんしゃって、そばをとおりかけた小僧こぞうが、わざわざ自転車じてんしゃめて、子供こどもたちのなかにまじって、おじさんの説明せつめいをきこうとしているのも見受みうけられます。
茶色ちゃいろふるびた帽子ぼうしななめにかぶった、くちひげのあるおじさんは、なんとなくずるそうなつきをして、自分じぶんのまわりにっている子供こどもたちのかおまわしました。そして、こころなかで、いつもくる子供こどもたちがみんなあつまったかと、一人一人ひとりひとりかおをしらべているようにもられました。おじさんは、いつもってくれる子供こどもかおは、よくおぼえているのでしょう。そして、そのなか幸吉こうきちっていると、おじさんの、そのずるそうなつきは幸吉こうきちかおうえまりました。おじさんは、幸吉こうきちにさも皮肉ひにくそうに、
「おまえ、このごろわないな。」といいました。幸吉こうきちが、いつもきたならしいふうをしていたからでもありましょう。また、めったにあめをわないので、紙芝居かみしばいのおじさんにとって、けっしていい得意とくいでなかったのも事実じじつです。
しかし、幸吉こうきちは、みんなのまえで、こんなことをいわれていい気持きもちはしませんでした。かれは、だまって、ただかおにしているには、もっと勇気ゆうきがありました。また、そんなことをいわれる理由りゆうもないようにかんじました。かれは、おじさんにかって、
いたくないから、わないのだよ。」と、きっぱりといいました。かれは、すくなくも侮辱ぶじょくたいする仕返しかえしをしたように、ちいさなかたをぐっとげたのです。
「ふん。」と、おじさんは、いったきりで、あっちをいてしまいました。
「そんなこと、どうでもいいから、はやくおはじめよ。」と、一人ひとり子供こどもさけびました。
「もうすこしちな、いまはじめるから。」と、おじさんは、おきゃくそんじまいとしました。
幸吉こうきちは、いつまでもっていておはなしをきこうとはしませんでした。ひとり、みんなからはなれて、あちらへあるいていきました。かれこころなかは、なんとなくさびしかったのです。
くろ常磐木とわぎはやしがあった、そのしたへきました。じきにはな季節きせつだったけれど、ここだけは、まだふゆのこっているようにかぜつめたかったのです。かれは、このつめたいかぜが、かえって、かなしい自分じぶんむねにしみるように、いつまでもここにいて、かぜかれていたい気持きもちがしました。足音あしおとがしたのでくと、こちらへけてくるおんなあかいたもとがえました。
幸吉こうきちさん、はやくいらっしゃいよ。わたしかねっているわ。」と、ごろからしたしいみつさんが、いいました。みつのおとうさんは、おおきな会社かいしゃつとめているとかで、みつは、いつも幸福こうふくそうでした。けれど、幸吉こうきちには、そのことが、なんの関係かんけいもなかったのです。
「みつさんが、きけばいいじゃないか。」と、幸吉こうきちは、しろで、みつかおました。
「あんたもいらっしゃいよ。」
みつは、ひとりはなれていった幸吉こうきちこころなかどくおもったので、いかけてきたのです。
あちらでは、おじさんのおもしろそうに声色こわいろ使つかっているのが、きかれました。
ぼく、きかなくていいんだよ。」
幸吉こうきちは、このうえ、自分じぶんれていこうとするのは、自分じぶん降伏こうふくさせるものだとおもったので、ついおこごえしたが、しまいにそこにいたたまらなくなって、またあてもなくしていきました。
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