花の咲く前(5)
日期:2022-12-05 23:59 点击:280
五
がんこの
叔父さんが、たいそう
機嫌がよくジャックの
頭をなでています。そのそばに
紫色の
長いたもとの
着物をきたみつ
子さんが
立って、
見て
笑っていました。あちらで、
拍子木の
音がすると、
年ちゃんや、
正ちゃんが、
「
紙芝居のおじさんがきたよ。」と、
駆け
出していきました。
幸吉は、
自分もいこうかと
思ったとき、ふいにガタンと
体が
揺れたので、
眠りから
覚めたのです。
彼は、
田舎行きの
汽車に
乗って、
夢を
見ていたのでした。
昨夜、
叔父さんが、
荷物を
持って、
停車場まで
送ってくれました。
夜が
明けると、
汽車は、
広々とした
平野の
中を
走っていました。
車中には、
眠そうな
顔をした
男や
女が
乗っていました。
窓から
外を
見ると、あたりの
田圃や、
雑木林は、まだ
冬枯れのしたままであって、すこしも
春の
気分が
漂っていなかったのです。
山々には、
雪が
真っ
白に
光っていました。
汽車は、だんだんその
山の
方に
近づいていきました。そして、ある
駅へ
着いたときに、
幸吉は、いままで
乗ってきた
汽車と
別れて、ほかの
客車へ
乗り
換えなければならなかったのです。これから
自分を
乗せてゆく
汽車は、もうちゃんとあちらで
待っていました。
形が
旧式で
色も
古びていました。
幸吉は、
自分がだんだん
都から
離れてゆくという、さびしい
気がしました。
その
日の
晩方、
彼は、
故郷の
生まれた
家へ
帰ったのです。そして、
幾年ぶりかで、お
母さんのそばに
床を
敷いてもらって
寝ることができました。
夜中に
目をさまして、
小便に
起きました。
彼は、
戸を
開けて
戸口に
出ると、
青ざめた
星晴れのした
空は、
忘れていた、なつかしい
幼い
日の
物語をしてくれますので、しばらくその
昔語りにききとれて、じっと
目をみはっていると、
遠くで、
「ウオー、ワン、ワン。」という
犬のほえ
声がしました。
「ジャックだ!」
幸吉は、こう
叫んだものの、ジャックの
声が、こんなところまできこえるはずのないことを
悟りました。
彼は、
泣きたいような
気持ちがしました。ただ、あのとき、ジャックを
助けてやってよかったと
独り
心の
中で
満足して、また
床へ
入って
眠りました。
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