六
彼は再び故郷へ帰って来た。黒い陰気な森は処々に立っている。彼は黙って家の中に坐っていた。
偶々、墓石の右手に見える道の上で、病気で死んだ娘の母親に出遇った時、巫女を見て来たかと問われた。けれど彼は、巫女が死んでしまったとは答えられなかった。相手の母親は、
「いえ、また夏になったら、この村へ入って来るような気がする……。」
と、いって左右に分れた。
友は、黙っている彼を訪れていろいろと話しかけた。
「まだ、いつか見た夢を思っているかえ。」
その友の筋肉の
弛んだように開いた口の穴が、
刹那に彼に謎のように考えられた。彼の頭はぐらぐらとして理窟ではない、ただ夢知らせというようなものを信じない訳にもゆかない気がした。
同時に、人々の、形のない美しい話も、故意にうそをいっているとは思われなかった。
それから彼は、黒い木立や、墓石や、石屋や、婆さんの家の周囲を考えながらぶらぶらと歩いて毎日、黙って日を暮らした。
その内に、白い雪が降って来た。
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