びっこのお馬(2)
日期:2022-12-07 23:59 点击:210
みんなは、
二郎が、ぼけの
枝に
芽をふくから、お
馬の
足も
伸びるだろうと
思っているのを、
無理に
打ち
消すのをかわいそうに
思ったからです。
「じゃ、
出しておいてあげようね。」と、
姉さんは、
二郎の
造ったびっこの
馬を二
階の
屋根の
上にのせておきました。
そのうちに、
雨が
降ってきました。
雨は、
庭先のぼけの
花に
当たると、
紅い
花片が
雨に
打たれてばらばらと、とれて
落ちました。また、
雨は二
階の
屋根に
出ていた
紙の
青い
馬にあたりました。するとまもなく、
紙の
馬はびっしょりとぬれてしまいました。
一晩、
雨は
降りつづきました。
夜が
明けると、
二郎は、まず
起きて、
庭先のぼけの
折れたところに、
芽がふいたかと
見ました。しかし、そこはただ
白くなって、
昨日のままでありました。
「
兄さんのぼけは、まだ
芽を
出さないが、
僕のお
馬は、
足が
伸びたろうか?」と、
二郎は
思いました。
そして、さっそく、二
階へ
上がっていって、
窓ぎわに
立ちましたけれど、
脊が
低くて、
二郎は、
屋根の
上をのぞくことができませんでした。
「
姉さん、
僕のお
馬の
足はどうなった?
見さしておくれよ。」と、
二郎は、
姉さんに
抱いて
見せてくれるように
頼みました。
姉さんは、
窓のところへきてのぞいてみますと、
青いお
馬は、
雨に
打たれて、
紙の
青い
色はみんなとれてしまって、いまは
汚らしく、
見る
影もなくなっているのでした。
姉は、こんな
姿を
二郎に
見せたくありませんでしたから、
「
二郎ちゃん、お
馬は、いま
雨にぬれて、ねんねしているのよ。
足は、
伸びかけていますの。」といいました。
「どれ、
僕に
見さしておくれ……。」と、
二郎は、
足踏みをして
頼みました。
「いいえ、いまだれも
見ないほうがいいのよ。お
馬は、
見られるのがいやだといっていますよ。」と、
姉さんはいいました。
二郎は、
我慢をして、もうすこしの
間、
見ないことにしました。その
日の
午後から、
雨が
晴れて、
青い
空があらわれたのであります。
風はさやさやと
新緑の
葉の
上を
渡っていました。それは、
心地のいい
景色であります。
「
姉さん、
僕のお
馬を
見せておくれよ。」と、
二郎は、また
姉に
頼みました。
姉は、二
階に
上がってきました。あとから
二郎がついてきました。しかし、
姉が
窓からのぞいてみると、
紙のお
馬はいつのまにか
乾いて、
風に
吹かれて
飛んで、あちらの
屋根のといにかかっていました。
「
姉さん、どうなった?」ときいている
弟に
対して、
姉は、ありのままに
知らせる
気にはなれませんでした。
「
二郎ちゃん、お
馬は
足がなおったものだから、
元気よくどこかへ
駆け
出していってしまいましたよ。」と
答えました。
二郎は、いつか、みんなから
遅れて、
汗を
流して
歩いていったびっこの
馬を
思い
出しました。また、
同時に、
足早に
歩いていった
健康な
馬の
姿を
思い
出しました。
びっこの
馬が、
足がなおって、
元気よくどこかへいったということは、どんなに
二郎に、うれしいことであったでしょう。
雨のために
足が
伸びて、
馬が、どこかへいってしまったことを、
二郎は、ほんとうだと
思いました。
(この
哀れな
少年は、
大きくなったら、すべてを
知るでしょう。)
その
夜は、いい
月夜でした。
二郎は、
田圃の
中の
真っ
白に
花の
咲いた、あんずの
木の
下に
立っていますと、あちらの
往来を
青いお
馬が、
月の
光に
照らされて
歩いていくのを、ありありと
見ました。そのことを
姉さんに
話すと、
姉さんは、そのときは
笑わずに、
泣いていました。
分享到: