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日の当たる門(1)
日期:2022-12-07 23:59  点击:212
 

日の当たる門

小川未明


きかん坊主ぼうずの三ちゃんが、りょうちゃんや、たっちゃんや、あやさんや、とめさんや、そのほかのものをきつれて、たっているもんのところへやってきました。
学校がっこうごっこをしようや、さあ、ここへならんで。」と、三ちゃんは命令めいれいをしました。けれど、みんなは、まだ学校がっこうがっていないので、よくっておりません。
をつけ、番号ばんごう!」
「一、二、三、四っ、五、六、七っ。」
「さあ、まるけ。」
三ちゃんは、ポケットから、白墨はくぼくして、へいおおきなまるをきました。白墨はくぼくっている子供こどもたちは、めいめいもんうえへ、またあちらのへいうえへ、まるをきましたが、白墨はくぼくっていない子供こどもたちは、ぬかるみのどろんこのなかぼうれて、きれいにあらってあるもんまえ石畳いしだたみうえへ、つちでまるをきました。三ちゃんは、みんなのいたまるをひととおりながめて、さも満足まんぞくしたように、
「うん。」と、うなずきました。
「こんどは、なんにしよう?」
唱歌しょうかだ。あいこく行進曲こうしんきょくをうたおう。」
みんなは、こえをあわせてうたいました。
よ、東海とうかいそらあけて、きょくじつたかくかがやけば、天地てんち正気せいきはつらつと、希望きぼうはおどる大八島おおやしま……。」
「もういい。あやさんが、いちばんうまい。たっちゃんはだめ。」と、三ちゃんが、てんをつけました。
ぼく、もっとうまくうたえるやい。」と、たっちゃんは、不平ふへいをいいました。
「こんなこと、もうよしたーと。」と、一人ひとりが、さけびました。
「だめ、こんどあっちへいくんだ。はらっぱへいって、戦争せんそうごっこをするんだ。をつけ、まえへ!」
三ちゃんは、号令ごうれいをかけました。そして、自分じぶんが、いちばん先頭せんとうって、テンテンテ、テンテンテ、トテトテト――と、くちでらっぱのまねをして、威張いばっていきました。そのあとから、みんながついて、あちらの横町よこちょうほうへまがってえなくなってしまいました。
ちょうど、そのじぶん、もんのあるいえのお勝手かってもとのガラスが、ガラ、ガラとあくおとがしたのです。ほおと両手りょうてあかくした女中じょちゅうが、お使つかいにいこうとして、もんのところまでくるとびっくりしました。
「まあ、どこのわるい子供こどもだろう、こんないたずらをして。」と、しばらくって、あっけにとられながら、もんうえや、石畳いしだたみおもてや、へいかれたしろまるや、どろんこのまるつめていました。
このいえのおじいさんがくちやかましいので、毎朝まいあさ女中じょちゅうさんは、つめたいのをがまんして、もんをふいたり、石畳いしだたみをゴシゴシとたわしで、みがくのでありました。女中じょちゅうさんは、お使つかいからかえったら、またおそうじをやりなおすうえに、へいまでふかなければならぬかとおもうと、がっかりしてしまったのです。
「このへんには、ほんとうに、わるいがたくさんいるとみえて、いやになってしまう。」と、ひとり、くちなかで、ぶつぶついいながら、かけていきました。
このとおりは、さきまっているので、あまりひとあるきませんでした。それをさいわいにして、また天気てんきのいいは、あさから、ひるすぎまで、がよくたるので、子供こどもたちのあそとなっていました。
ゆうちゃん、しっかりおげよ。」と、としちゃんは、ポン、ポンとグラブをたたいていました。
「よし、いいたますよ。」と、こんどは、ゆうちゃんのつよしたボールは、としちゃんのグラブのなかに、ボーンといって、うまくおさまりました。
そのうちに、あっ、というゆうちゃんのこえがしたかとおもうと、たまはねらいをはずれて、ドシンとおおきなおとをして、板塀いたべいにうちあたったのです。二人ふたりは、いっしょにくびをすくめました。そして、かおあってわらいました。
「おじいさんがしかるよ。」と、そばでていたよしさんが、いいました。
「しかったら、よすよ。」と、ゆうちゃんが、いいました。
ゆうちゃん、いまのはすべったんだ。もっとつよくたっていいよ。」と、敏夫としおは、元気げんきでありました。
「このボールがいけないんだね。」
めにへいたまがあたったときは、いたやぶりそうなおとをたてました。すると、もんのところへおじいさんがてきました。
「おい、子供こども、あっちへいってやれ、門燈もんとうをこわすと大事おおごとだ。ここはひとのとおるみちで、ボールをげてあそ場所ばしょでない。こんど、へいにあたるとゆるさないぞ。」と、おじいさんは、いいました。おじいさんのひっこむのをると、としちゃんが、
へいにあたるとゆるさないって、どうするんだろうね。こんなくさったへいがなんだい。」と、いって、ボールをげつけるまねをしました。
はらっぱへいこうか?」
「ああ、いこう。」
としちゃんは、っているボールをたかそらげて、自分じぶんでうけとっていましたが、どうしたはずみにか、ボールはもんうちちて、あちらへころころと、ころがっていきました。
「エヘン。」と、おじいさんのせきばらいがしました。女中じょちゅうが、なにかおじいさんにはなしているこえがきこえます。
「いうことをきかなかったら、とりあげてしまえばいいのだ。」
「ほんとうに、この近所きんじょには、いたずらおおうございます。」
ゆうちゃんと、としちゃんとは、したしていました。よしさんは、わらっていました。
「ボールがはいったから、こちらへげておくれ。」と、としちゃんが、いいました。もんうちから、なんの返答へんとうもありません。ゆうちゃんは、しゃがんで、もんしたのすきまからのぞくと、ボールは山茶花さざんかもとのあたりにころがっていました。
「さおをってこようか。」と、としちゃんがいいました。
「あちらへ、ころがってしまわないかな。」
「よしさん、ってきてくれない。」と、ゆうちゃんがたのみました。
「いやよ。」と、よしさんはおおきくみはりました。
こまったなあ。」
「みんなうちはいったら、ぼくとってくるから。」
そのうちに、女中じょちゅうもいなくなるし、おじいさんも、にわほうへいったようです。ゆうちゃんは、もんのわきについているとびらをおすと、チリン、チリンとけたたましくすずがなりましたが、かれはすばやくうちへかけんで、ボールをひろうと、またはしってもんそとました。とびらをしめるときに、ちからをいれていたので、チリ、チリ、チリンというおとが、けたたましくしました。
「さあ、はらっぱへいこう。」
たちまち、子供こどもらの姿すがたは、ここからえなくなってしまいました。
*   *   *   *   *

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