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火を点ず(2)
日期:2022-12-07 23:59  点击:215
 
「ありがとうございます。」といって、おとこは、そのいえまえからりました。
りにくるのをうものでない。これからやはり、みせへいってったほうがとくだ。」と、女房にょうぼうは、ひとごとをしながらいえはいりました。
まど格子こうしには、えついたように、このとき、とうがらしをらしていました。
先刻さっきおとこが、石油売せきゆうりのあとっていきました。
ぼく石油せきゆのにおいがだいすきだよ。」
その子供こどもは、ともだちにあうとそういっていました。
「かきを一つあげようか。」
ともだちは、ふところからかきをして、少年しょうねんわたしました。二人ふたり子供こどもは、かわいた往来おうらいうえで、黄色きいろ果実かじつってたのしそうにあそんでいました。
そのあいだに、石油売せきゆうりは、はたけあいだとおって、あちらへいってしまった。
日暮ひぐがたすこしまえに、このかさをかぶった、わらじをはいてきゃはんをけた労働者ろうどうしゃは、むらをまわりつくしてまちようとして、ある神社じんじゃのそばにさしかかり、そこにろして、しばらくやすんでいました。境内けいだい木々きぎ黄色きろいろづいていました。
さむくなった。今年ことし夜着よぎつくらねばなるまい。」
無口むくちわかおとこは、あたりのさびしくなった景色けしきまわしながらひとごとをしていました。
やがて、かれは、いえかえって、日暮ひぐがたちかづいて店頭みせさきへくるきゃくに、石油せきゆはかってわたしていたのです。
あるいていってるときはおまけができないが、みせにくるひとには、すこしずつおまけをしよう。」
これがかれこころおきてとなっていました。すこしでもりょうおおいのをよろこんだ、このあたりのまずしい生活せいかつをしている人々ひとびとは、わざわざかれみせへやってきました。そのなかには、老人ろうじんもあれば、わかおんななどもあったが、れても、まだ仕事しごとはなさない、ほんとうに一こくをもあらそうそのかせぎの人々ひとびとは、子供こども使つかいにやるのでした。
このよるいくまん燭光しょっこう消費しょうひする都会とかいあかるいよる光景こうけいなどは、この土地とち人々ひとびとのほとんどそのはなしいても理解りかいすることのできないことであったのです。
おとこは、店頭みせさきにきた、きたならしいふうをした子供こどもて、どこかでたことのある子供こどもだとおもいました。しかし、かれは、昼間ひるま石油せきゆのかんをのぞいた子供こどもだということはおもいにかばなかったのです。
子供こどもは、一ごう石油せきゆって、ぜにをそばにかさねてあったばこうえにのせて、ちいさな姿すがた店頭みせさきからえました。
おとこは、うすぐらくなった光線こうせんのうえで、はこうえにのせてあったぜにげて、しらべてました。
「なに、これは五りんせんじゃねえか、五りんごまかそうとおもいやがって……。」と、いまいましそうにいって、かおいろえた。
「おまけをしたうえに、ごまかされて、一ごうあたまでいくらもうかるけえ。」
無口むくちな、おとなしそうなおとこ似合にあわず、きゅうおそろしいけんまくとなりました。おとこは、すぐさましていきました。
「きっと、貧乏村びんぼうむら子供こどもにちげえない。」
かれは、むらほうかって、おそろしいいきおいではしりました。ちいさな子供こどもの、あぶらびんをぶらさげて、みじか着物きもののすそからた二ほんあしに、ぞうりをはいていくうし姿すがたつけると、
「おい、餓鬼がきめ、て!」と、かれは、どなるとほとんど同時どうじに、子供こどもうしろえりをつかまえました。
もし、だれかむらのものがこのさまたら、あの平常ふだんくちもきかないおとこに、こんな残忍ざんにんなことができるかと、かつて想像そうぞうのできなかっただけびっくりするでしょう。
「五りんごまかそうなんて、ふらちなやつだ。」
「五りんせ、それでなけりゃ、そのびんをよこせ。」
少年しょうねんは、くろおおきなをみはって、かおにして、なにもいえないでふるえています。
「さあ、石油せきゆのびんをわたせ。」と、おとこは、少年しょうねんからったくるとたんになわがれて、びんは地上ちじょうちて、たおれると石油せきゆしげもなく、くちから雲母きららのごとくながました。
「てめえみたいなやつは、おおきくなるとどろぼうになるんだ。」
おとこは、ちいさな両眼りょうめをこすってした少年しょうねん後目しりめにかけて、ののしるとまちほうかえしてしまいました。
神社じんじゃ境内けいだいにあった、いちょうのは、黄色きいろく、ひらひらと、すでにうすぐらくなったうえまれるようにっていました。少年しょうねんは、いつまでもいていたが、きゅうになきやんだ。そして、あしもとにたおれているびんをひろって、一もくさんむらほうはしりだした。
おれをどろぼうといったぞ。」と、口走くちばしりながら。
まちに、燈火あかりのつくころでした。みすぼらしいようすをした老婆ろうばが、石油屋せきゆやぐちって、
「さっき、子供こどもが、五りんりなかったので、どろぼうだといってしかられたといてきたが、わたしぜにわたしたときにわるいものでまちがったのだ。まちがいということは、だれにでもあることでな……。」と、老婆ろうばは、をしばたたきながら、主人しゅじんにいった。
「いえ、五りんりないといかけていっていうと、たしかにいてきたといいなさるから、うそをいうことは、どろぼうのはじまりだといったのです。」と、平常ふだん無口むくちおとこ白々しらじらしくこたえた。

翌日よくじつがたのことです。おとこが、きゃくのために石油せきゆはかっていると、不意ふい目先めさきをすったものがある。はっと心臓しんぞうされたようにびっくりしたときは、非常ひじょう爆音ばくおんとともに、もうかれつつんでいました。
少年しょうねん不思議ふしぎ犯罪はんざいとして、このはなしは、いまだにこのまちのこっています。
 

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