春になる前夜(2)
日期:2022-12-08 07:28 点击:263
みんなは、
背中に
負っている
荷物を
下ろしました。そして、
雪の
上に
拡げて、
徳利に
入れて
下げてきた
酒をついで、めいめいが
飲みはじめました。みんなは、いくら
寒くても、
酒の
力で
体があたたまりました。すると、おじいさんは、
「さあ、みんなで
歌うだ!
弾くだ! この
世でのしおさめに、
力のかぎり
出してやるのだ。そして、くまも、おおかみも、
山も、
谷も、
野原も、
心あるものを、みんなびっくりさしてやれ!」と、みんなを
励ましていいました。
やがて、ときならぬいい
音色が、
山奥のしかもさびしい
野原の
上で
起こりました。
笛の
音、
胡弓の
音、それに
混じって
悲しい
歌の
節は、ひっそりとした
天地を
驚かせました。おじいさんは
雪の
上にすわって
音頭をとりました。
若い
女と、
若い
一人の
男は
立って
踊りました。
一人の
男は、やはり、
雪の
上にすわって
胡弓を
弾いていました。
女はいい
声で
歌い、
立って
踊っている
男は、
片脚を
上げて、
唇に
笛を
当てて
吹いていました。
雪は、いつしかやんで、
月の
光が、この
下のときならぬ
舞踏会をたまげた
顔をしてながめていますと、いままで
隠れていた
星までが、三つ、四つ、しだいにたくさん
顔を
出して、
空の
遠方からこの
有り
様をのぞいていたのです。
木の
枝に
止まって、すべてのことを
知りつくしていたすずめは、
悲しくて
悲しくて、たまらなくなって、
熱い
涙が
目からあふれて
出ました。しかし、そのときの
寒さというものは
一通りでなくて、
目から
出た
涙は、すぐに
凍って
両方の
目はふさがってしまいました。すずめは
足をあげて
目をぬぐおうとしましたが、このときは、はや
両方の
足が
枝の
上に
縛りつけられたように、
凍りついて
離れませんでした。
すずめは、つくづく
寒気というものを
情けなしな、
冷酷なものだと
思いました。
月も、
星も、また
雪までも、ああして
感心して
哀れな
歌をきき、
音楽に
耳を
澄ましているのに、
寒気だけが
用捨なく
募ることを、すずめは
腹だたしくも、またかぎりないうらめしいことにも
思ったのです。
そのうちに、どうしたことか、
歌の
声も、
音楽のしらべも、だんだん
小さく、
低く、
遠のいてゆくのを
感じました。けれど、すずめは、ついに
明くる
日の
朝まで
身動きもできず、
目を
開けることもかなわず、
鋳物のように
木の
枝に
止まっていました。
太陽が
照らしたときに、すずめは、はじめてあたりのようすを
知ることができたのです。
「
昨夜のことは、みんな
夢ではなかったか、あの
人たちは、どうなったのだろう?」と、すずめは、
小さな
頭を
傾けて
思いました。なぜなら、あたりは、
雪が二
尺も、三
尺も
積もっていて、そのほかには、なにも
目の
中に
入らなかったからです。
それからは、
長い
間、すずめは、このことが
不思議でならなかったのです。すずめは
毎日、
雪の
中を
山のあちらへ、また、
林のこちらへと
飛びまわって、だれも
通らない、さびしい
雪の
広野を
見渡して
鳴いていました。
そのうちに
冬も
老けて、だんだん
春に
近づいてまいりました。ある
日のこと、
西南の
空のすそが、
雲切れがして、そこから、なつかしいだいだい
色の
空が、
顔を
出していました。すずめは、
木の
枝に
止まって、じっとその
方を
見てぼんやりとしていました。
暖かな
南の
風が
吹いてきました。それからというもの、
毎日のように、
南の
風が
吹き
募って、
雪はぐんぐんと
消えていきました。すずめは、もう
冬も
逝ってしまうのだと、
体を
円くして、
心地いい、
暖かな
風に
羽を
吹かれながら、いままで
埋もれていた
山の
林や、また
野原の
木立が、だんだんと
雪のなかに
姿を
現してくるのを
楽しみにしていたのです。
「ああ、じきに
花が
咲くころともなるだろう。そうすると、
他国の
方から、
名の
知らないような
美しい
鳥が
飛んできて、
林や
森の
中で
唄をうたうであろう。それを
聞くのがたのしいことだ。」と、この
山のふもとに
生まれて、この
野原と、
林としかほかのところは
知らないすずめは、せめて
他国の
鳥の
唄を
聞くことを
幸福に
思っていたのです。
すると、ある
暖かな
晩に、すずめは
野原の
中から、
笛の
音と、
胡弓の
音と、
悲しい
唄の
声を
聞きました。すずめは、それを
聞くとびっくりしました。いつかの
哀れな
旅楽師を
思い
出したからです。
いままで、その
野原の
中に
凍っていた、それらの
音色が、
南の
風に
解けて、
流れ
出したものと
思われます。しかし、その
人たちの
死骸は、
飢えたおおかみやくまに
食べられたか、
見つかりませんでした。ただ、この
物悲しい
音色は、
風に
送られて、その
後、
幾夜も、この
広野の
空を
漂っていたのです。
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