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春はよみがえる(2)
日期:2022-12-08 07:30  点击:239
 
さらに、事実じじつげると、先日せんじつのこと、おとこは、かきのにとまった、すずめをねらっていました。このをまぬかれた老木ろうぼくで、えだり、すずめなどのいいあそ場所ばしょでした。だれでも、こうした光景こうけいるなら、生物せいぶついのちのとうとさをるものは、かみすくいをいのったでありましょう。正吉しょうきちも、こころのうちで、どうかたまのはずれるようにとねがっていました。しかし、精巧せいこう機械きかいのほうが、よりその結果けっか確実かくじつでした。たぶん、すずめをたすけたいばかりに、おやすずめががわりになったらしく、いっしょにげればよかったものを、ただ一だけ、じっとして、たまたったのでした。
正吉しょうきちだけでなく、酒屋さかや主人しゅじんも、このありさまをていました。
「あれは、たしかにおやすずめが、がわりになったんだよ。かわいそうにな。」と、正吉しょうきち青服あおふくにきこえるように、いうと、
「どこが、かわいそうなんだ。そういうなら、牛肉ぎゅうにくも、さかなも、べないかい。ばかをいっちゃこまるよ。」と、青服あおふくは、せせらわらいました。
あかかお酒屋さかや主人しゅじんは、青服あおふくちかよって、
旦那だんな、いい空気銃くうきじゅうですね。そこらのおもちゃとちがって、だいいち鉄砲てっぽうがいいや。」といって、ほめました。
青服あおふくは、じゅうがいいのでたると、酒屋さかや主人しゅじんがいったとでもとったか、
「なに、おれはうで自信じしんがあるんだよ。せんだってもはま射的屋しゃてきやで、旦那だんな、どうかごかんべんねがいますって、あやまられたんだぜ。ねらったが最後さいご、はずしっこないからな。」と、青服あおふく自慢じまんしました。それから、したへいって、ちたすずめをひろいました。さっきまで、仲間なかまとさえずりあっていた、あわれなとりは、もはやしかばねとなって、かたくじていました。
「やはり、いまのものなら、日本製にっぽんせいでしょうね。」と、主人しゅじんくと、
「ちがう。戦争前せんそうまえのドイツせいさ。これなら、かもでも、きじでも、なんでもてるよ。こんどうずらちにいこうとおもっている。」と、こうこたえて、青服あおふくは、獲物えものをみつめるように、をかがやかせました。
「おもしろいでしょうね。」と、わざとらしく、酒屋さかや主人しゅじんは、あいづちをちました。
「なによりも、殺生せっしょうとかけごとが、大好だいすきだなんて、こまった性分しょうぶんさ。」と、青服あおふくは、自分じぶんをあざけりながら、他人たにんのいやがることをこのむのが、近代的きんだいてきおもいこみ、かえってほこりとするらしくえました。
「どれ、せてください。あんたの鉄砲てっぽうを。」
「おれんでない、家主やぬしのだよ。ただつのがおもしろいので、べやしないから、みんなとりちんにやってしまうのさ。なんで、あのけちんぼが、ただで、じゅうなんかすもんか。」
「じゃ、とりは、みんな家主やぬしさんに、やるんですね。」
「おとといだか、ったもずをやると、すずめより、おおきいって、よろこんだよ。」
正吉しょうきちが、それをいて、このおとこは、禁鳥きんちょうでもつのかと、おどろきました。かれ空気銃くうきじゅうってあるくかぎり、小鳥ことりたちにも、このまちにも、平和へいわはないというがしました。
うぐいすのこえいて、画家がかをたずねてから、はや、二、三にちたちました。いつもあさきる時分じぶんいたのが、きゅうにそのこえがしなくなりました。正吉しょうきちは、なんとなく、不安ふあんかんじたのです。学校がっこうやすみをって、こころかれるまま、うぐいすのきた方角ほうがくかけてみました。みちばたのはたけには、うめがあり、さくらがあり、またまつ若木わかぎがありました。戦後せんごになって、どこからか植木屋うえきやがここへ移植いしょくしたものです。いろいろの下草したくさは、しもにやけてあかいろづいていたし、つちは、くろくしめりをふくんでいました。
正吉しょうきちは、まだふかくもさがしてみないうちに、それは、しん偶然ぐうぜんでした。ふとあしもとをると、くさなかちている、小鳥ことり死骸しがいにはいりました。はっとおもって、予期よきしたとおりだと、むねがどきどきしました。けれど、まだうぐいすとしんじきれず、にとってると、草色くさいろをしたはねは、すでに生色せいしょくがなく、からだはこわばっているが、うぐいすにちがいなかったのです。おそらく、こえがしなくなったたれたので、ねこもがつかなかったとみえました。
正吉しょうきちは、さっそく画家がからせました。そして、いいました。
「たしかに、あのあおふくおとこが、空気銃くうきじゅうったのです。」
「せっかくやまから、はやしをつたってきたのを、おもいやりのないことをしたものだな。」と、画家がかは、うぐいすのかなしみました。
「ほんとうに、わるいやつです。」と、正吉しょうきちは、いいました。
「どんなかおおとこだな。」と、画家がかが、きました。
正吉しょうきちは、自分じぶんるだけのことを、くわしくはなして、
青服あおふくは、自分じぶんくちから、かけごとと殺生せっしょうがなにより大好だいすきだというのだから、やさしいかおはしていませんよ。酒屋さかやのおじさんが、あのおとこは、べつに仕事しごともせず、競輪けいりんや、競馬けいばで、もうけたかねで、ぶらぶらしてらすんですって。そして、お体裁ていさいにあんなよけ眼鏡めがねをかけているのだって。」
「そうか、与太者よたものらしいな。まじめな人間にんげんなら、そんなふうをしないし、殺生せっしょうをなによりきだなどといわぬだろう。いまごろ、はやりもしない空気銃くうきじゅうを、どこからしたものか。」と、画家がかは、不審ふしんおもいました。
「あすこのへ二けんつづきのいえいくつもったでしょう。あすこにいるんですよ。じゅう家主やぬしからりて、自分じぶんつのがおもしろいので、とり家主やぬしにやるといいました。家主やぬしは、戦争中せんそうちゅうたけ生活せいかつをしたひとから、時計とけいや、双眼鏡そうがんきょうや、空気銃くうきじゅうなどやすったのだと、やはり酒屋さかやのおじさんがいっていました。」と、正吉しょうきちかたりました。

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