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春はよみがえる(2)
日期:2022-12-08 07:30  点击:307
 
さらに、事実じじつを上あげると、先日せんじつのこと、男おとこは、かきの木きにとまった、すずめをねらっていました。この木きは火ひをまぬかれた老木ろうぼくで、枝えだを張はり、すずめなどのいい遊あそび場所ばしょでした。だれでも、こうした光景こうけいを見みるなら、生物せいぶつの命いのちのとうとさを知しるものは、神かみの救すくいを祈いのったでありましょう。正吉しょうきちも、心こころのうちで、どうか弾たまのはずれるようにと願ねがっていました。しかし、精巧せいこうな機械きかいのほうが、よりその結果けっかは確実かくじつでした。たぶん、子こすずめを助たすけたいばかりに、親おやすずめが身みがわりになったらしく、いっしょに逃にげればよかったものを、ただ一羽わだけ、じっとして、弾たまに当あたったのでした。
正吉しょうきちだけでなく、酒屋さかやの主人しゅじんも、このありさまを見みていました。
「あれは、たしかに親おやすずめが、身みがわりになったんだよ。かわいそうにな。」と、正吉しょうきちが青服あおふくにきこえるように、いうと、
「どこが、かわいそうなんだ。そういうなら、牛肉ぎゅうにくも、魚さかなも、食たべないかい。ばかをいっちゃ困こまるよ。」と、青服あおふくは、せせら笑わらいました。
赤あかい顔かおの酒屋さかやの主人しゅじんは、青服あおふくに近ちかよって、
「旦那だんな、いい空気銃くうきじゅうですね。そこらのおもちゃとちがって、だいいち鉄砲てっぽうがいいや。」といって、ほめました。
青服あおふくは、銃じゅうがいいので当あたると、酒屋さかやの主人しゅじんがいったとでもとったか、
「なに、おれは腕うでに自信じしんがあるんだよ。先せんだっても浜はまの射的屋しゃてきやで、旦那だんな、どうかごかんべんねがいますって、あやまられたんだぜ。ねらったが最後さいご、はずしっこないからな。」と、青服あおふくは自慢じまんしました。それから、木きの下したへいって、落おちたすずめをひろいました。さっきまで、仲間なかまとさえずりあっていた、哀あわれな鳥とりは、もはや屍しかばねとなって、かたく目めを閉とじていました。
「やはり、今いまのものなら、日本製にっぽんせいでしょうね。」と、主人しゅじんが聞きくと、
「ちがう。戦争前せんそうまえのドイツ製せいさ。これなら、かもでも、きじでも、なんでも打うてるよ。こんどうずら打うちにいこうと思おもっている。」と、こう答こたえて、青服あおふくは、獲物えものをみつめるように、目めをかがやかせました。
「おもしろいでしょうね。」と、わざとらしく、酒屋さかやの主人しゅじんは、あいづちを打うちました。
「なによりも、殺生せっしょうとかけごとが、大好だいすきだなんて、困こまった性分しょうぶんさ。」と、青服あおふくは、自分じぶんをあざけりながら、他人たにんのいやがることを好このむのが、近代的きんだいてきと思おもいこみ、かえって誇ほこりとするらしく見みえました。
「どれ、見みせてください。あんたの鉄砲てっぽうを。」
「おれんでない、家主やぬしのだよ。ただ打うつのがおもしろいので、食たべやしないから、みんな鳥とりは借かり賃ちんにやってしまうのさ。なんで、あのけちんぼが、ただで、銃じゅうなんか貸かすもんか。」
「じゃ、鳥とりは、みんな家主やぬしさんに、やるんですね。」
「おとといだか、打うったもずをやると、すずめより、大おおきいって、喜よろこんだよ。」
正吉しょうきちが、それを聞きいて、この男おとこは、禁鳥きんちょうでも打うつのかと、おどろきました。彼かれが空気銃くうきじゅうを持もって歩あるくかぎり、小鳥ことりたちにも、この町まちにも、平和へいわはないという気きがしました。
うぐいすの声こえを聞きいて、画家がかをたずねてから、はや、二、三日にちたちました。いつも朝あさ起おきる時分じぶんに鳴ないたのが、急きゅうにその声こえがしなくなりました。正吉しょうきちは、なんとなく、不安ふあんを感かんじたのです。学校がっこうの休やすみを待まって、心こころの引ひかれるまま、うぐいすのきた方角ほうがくへ出でかけてみました。道みちばたの畑はたけには、梅うめの木きがあり、桜さくらの木きがあり、また松まつの若木わかぎがありました。戦後せんごになって、どこからか植木屋うえきやがここへ移植いしょくしたものです。いろいろの下草したくさは、霜しもにやけて赤あかく色いろづいていたし、土つちは、黒くろくしめりをふくんでいました。
正吉しょうきちは、まだ深ふかくも探さがしてみないうちに、それは、真しんに偶然ぐうぜんでした。ふと足あしもとを見みると、草くさの中なかに落おちている、小鳥ことりの死骸しがいが目めにはいりました。はっと思おもって、予期よきしたとおりだと、胸むねがどきどきしました。けれど、まだうぐいすと信しんじきれず、手てにとって見みると、草色くさいろをした羽はねは、すでに生色せいしょくがなく、体からだはこわばっているが、うぐいすにちがいなかったのです。おそらく、声こえがしなくなった日ひに打うたれたので、ねこも気きがつかなかったとみえました。
正吉しょうきちは、さっそく画家がかに知しらせました。そして、いいました。
「たしかに、あの青あおい服ふくを着きた男おとこが、空気銃くうきじゅうで打うったのです。」
「せっかく山やまから、林はやしをつたってきたのを、思おもいやりのないことをしたものだな。」と、画家がかは、うぐいすの死しを悲かなしみました。
「ほんとうに、悪わるいやつです。」と、正吉しょうきちは、いいました。
「どんな顔かおの男おとこだな。」と、画家がかが、聞ききました。
正吉しょうきちは、自分じぶんの知しるだけのことを、くわしく話はなして、
「青服あおふくは、自分じぶんの口くちから、かけごとと殺生せっしょうがなにより大好だいすきだというのだから、やさしい顔かおはしていませんよ。酒屋さかやのおじさんが、あの男おとこは、べつに仕事しごともせず、競輪けいりんや、競馬けいばで、もうけた金かねで、ぶらぶらして暮くらすんですって。そして、お体裁ていさいにあんな日ひよけ眼鏡めがねをかけているのだって。」
「そうか、与太者よたものらしいな。まじめな人間にんげんなら、そんなふうをしないし、殺生せっしょうをなにより好すきだなどといわぬだろう。いまごろ、はやりもしない空気銃くうきじゅうを、どこから持もち出だしたものか。」と、画家がかは、不審ふしんに思おもいました。
「あすこの空あき地ちへ二軒けんつづきの家いえが幾いくつも建たったでしょう。あすこにいるんですよ。銃じゅうは家主やぬしから借かりて、自分じぶんは打うつのがおもしろいので、鳥とりは家主やぬしにやるといいました。家主やぬしは、戦争中せんそうちゅう、竹たけの子こ生活せいかつをした人ひとから、時計とけいや、双眼鏡そうがんきょうや、空気銃くうきじゅうなど安やすく買かい取とったのだと、やはり酒屋さかやのおじさんがいっていました。」と、正吉しょうきちは語かたりました。

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09/28 07:03