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春はよみがえる(3)
日期:2022-12-08 07:30  点击:271
 
「あたりが、やっとおちついて、むかしのような平和へいわがきたとおもったら、いつのまにか、人間にんげんこころわってしまって、信用しんようどころか、なんだか危険きけんで、油断ゆだんができなくなったよ。」と、画家がか歎息たんそくしました。
酒屋さかやさんは、ああいうのを、アプレゲールとか、いうので、いままでの日本人にっぽんじんとちがっているのだと、いっていましたよ。」
しょうちゃん、ていてごらん、そのおとこは、きっとろくなことをしでかさないから。」と、画家がか予言よげんしました。
それからのちというもの、正吉しょうきちは、青服あおふくおとこが、子供こどもちぬかないか、また、ガラスまどやぶってひときずつけはしないかと、心配しんぱいしたのでした。
さむいかぜいてふゆぎゃくもどりしたようなでありました。青服あおふくは、屋根やねにとまっているすずめをねらっていたが、パチリ! と、がねをひくと、たまが命中めいちゅうして、すずめはもんどりって、とよのなかへころげみました。どこでていたか、ふいにくろねこがして、すずめをさらってげようとするのを、すばやく青服あおふくは、そのねこをねらってちました。ねこは悲鳴ひめいをあげ、屋根やねをつたって、姿すがたしました。たぶんそのあとに、がたれたとおもいます。これを青服あおふくは、さも心地ここちよげに、
「わっは、は、は。」と、こえをたててわらいました。
「あのねこは、ペンキのだよ。」と、ていた子供こどもたちがいっていると、ペンキから、かおにして、若者わかものがとびしました。このいえのせがれのかんしゃくちは、このあたりでらぬものが、なかったのです。
「どいつだ、うちのねこをったのは!」
「やい、てめえか。」と、いきなりせがれは、青服あおふくから空気銃くうきじゅうをもぎとりました。暴力ぼうりょく暴力ぼうりょくのはたしあいでした。青服あおふくがなにかいいかけるのをかばこそ、だいじりをさかさにじゅうげて、ちからいっぱいれよとばかり地面じめんにたたきつけました。この一げきで、さしも精巧せいこうなドイツせいも、銃身じゅうしんがみにくくがってしまいました。
正吉しょうきちはあとで、この事件じけんいたのであるが、これがため、青服あおふく家主やぬしじゅうかえされなくなったので、弁償べんしょうすることに、はなしがついたといいました。
ところが、それ以来いらい青服あおふくには、競輪けいりんも、競馬けいばも、いっこうにうんがむいてこず、かね工面くめんくるしみました。一ぽう家主やぬしからは、つぎばやにかねをさいそくされたのであります。
ついに、青服夫婦あおふくふうふは、このまちにいたたまらなくなって、あるばん、どこかへ、居所いどころをくらましてしまいました。そして、だれのにも、あばずれおんなとしかえなかった青服あおふくわか女房にょうぼうは、ふだんくちびるあかくぬって断髪だんぱつをちぢらしていたが、くもがくれするまえのこと、
「わたしたちみたいな、ばかはないよ。うちのひとが、鉄砲てっぽうつのがうまいからって、いやがるのをむりにたし、とったとりはみんなげておきながら、鉄砲てっぽうがいたんだから、おかねで、弁償べんしょうせいと、どこにそんな強欲ごうよく家主やぬしさんがあろうか。どちらがまちがっているか、みんなにいてもらいたいもんだ。」と、悪口わるぐち世間せけんへいいふらしました。
これをいて、事情じじょうらぬひとたちは、金持かねもちや、家主やぬしにありそうなことだと、した青服夫婦あおふくふうふへ、同情どうじょうしたかもしれません。
このような、おのれを弱者じゃくしゃせかけて、世間せけんいつわろうとする、不正直者ふしょうじきものが、このごろだんだんおおくなったのでした。
正吉しょうきちは、これをにがにがしくおもいました。ひっきょうはじかんじなくなった人間にんげんは、自分じぶんというものがなくなったので、どこまで、堕落だらくするものだろうかとかんがえました。
こうしてまちでは、人々ひとびとが、よろこんだり、かなしんだり、たがいにあらそったりするうちに、いつしかはるめいてきました。大空おおぞら太陽たいようは、すべてをたけれど、干渉かんしょうしようとはしなかったのです。そして永久えいきゅうに、ただあいめぐみとしからない、太陽たいようひかりは、いつも、うららかで、あかるく、平和へいわで、ぜんちていました。
ある正吉しょうきち画家がかたずねると、もう、すべてのことをっていて、画家がかのほうから、
「あの空気銃くうきじゅうって、とりってあるいたおとこは、どこかへいったというはなしだね。」と、かおあかるい表情ひょうじょうをただよわしながら、いいました。
「それに、おじさん、きましたか、ペンキのせがれがおこって、空気銃くうきじゅう地面じめんへたたきつけてもうてなくしてしまったんですよ。」と、正吉しょうきちは、げたのです。画家がかは、そのことも、だれかにいたとみえて、っていました。
「ああ、それでいいんだよ。そんなものさえなければ、つものもないんだからね。」
なるほど、それで、ほんとうにいいのだと、正吉しょうきちおもいました。こんどのことで、いちばんそんをしたのは、高価こうかじゅうをなくし、世間せけんからわるくおもわれた家主やぬしであろうと、かんがえたので、画家がかにそうはなすと、
「いつも、自分じぶんだけとくをしようとする、家主やぬし量見りょうけんがちがっているから、じゅうげられたのは、ばちがあたったのだよ。たとえなんと世間せけんからいわれても、平常へいじょうこころがけがよくないから、これもしかたがないのだ。なんにしろ、あぶないじゅうつやつがいなくなって、やっと安心あんしんしたよ。」と、画家がかは、さも、うれしそうでありました。
「すずめも、これから安心あんしんですね。もうあんな青服あおふくみたいな人間にんげんがこなければ、いいんだがなあ。」と、正吉しょうきちがいうと、
「もうこやしないから、安心あんしんしたまえ。そうわるいやつばかりでないだろう、きみのようないい少年しょうねんもいるのだから。」と、画家がかは、正吉しょうきちをはげましました。
「ああ、はるがきた。」といって、二人ふたり自然しぜん偉大いだいなるちからしんぜずに、いられませんでした。
 

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