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日がさとちょう(2)
日期:2022-12-08 07:34  点击:331
 
みやこは、ちょうどなつのはじめの季節きせつでありましたから、まち唐物店とうぶつみせには、流行りゅうこううつくしいがさが、いく種類しゅるいとなくならべてありました。
「あのがさをさしてかえったら、どんなにみんながたまげるだろう……。」と、彼女かのじょは、おもいますと、それをさしてかえって、みんなにせてやりたいものだというになりました。
彼女かのじょは、唐物店とうぶつみせへいって、そのなかのハイカラなのを、かなりたかいおかねしていました。それをさしてあるいた姿すがたは、まったく東京とうきょうおんなであって、どこにも、山奥やまおく田舎娘いなかむすめらしいところはえなかったのであります。
彼女かのじょは、自分じぶん姿すがたかがみにうつしてとれていました。そして、いよいよふるさとにかって旅立たびだったのであります。
やまなかのさびしいむらでは、みみとおむすめが、ちがえるほどに、うつくしくなってかえったといって、あちらでもこちらでも、うわさをしました。
「たいへんな、ハイカラさんになってきた。」と、みんなは、口々くちぐちにいいはやしたのであります。むすめたちは、まだ、こんなりっぱながさをたことがありませんから、みみとおむすめが、がさをさしてあるくと、みんなはそのそばにってきました。はじめのうちは、まるくしてているばかりで、遠慮えんりょをして、してくれなどといったものもありませんが、日数ひかずがたって、むかしのいっしょにあそんだ、みみとおむすめであったということが、あたまなかにはっきりとわかると、
わたしに、ちょっとしてくんなさい。」といって、むすめたちは、うつくしい、うす紅色べにいろ水色みずいろ模様もようのついたがさをりて、よろこんで、それをさしてみました。
東京とうきょうでは、こんなりっぱなものを毎日まいにちさし、みちあるくだか……。」といって、いたものもあります。
「これから、まちなかは、こんなパラソルがいくつとおるか、かぞえきれないくらいだ。」と、みみとおむすめはいいました。
これをきくと、田舎いなかむすめたちは、みやこのありさまをいろいろに想像そうぞうしました。
「それだら、たくさん、きれいなちょうが、んでいるようにえるだろう。」といったものもありました。
「ほんとうに、ちょうがんでいるようにうつくしいだろう。」といったものもありました。
「どら、おらにも、ちょっとしてくんなせい。おら、まれて、はじめて、こんなりっぱなものをさしてみるだ。」といったむすめもありました。
そのむすめは、がさをりてさしてみました。そして、あおぎますと、うすい絹地きぬじをとおして太陽たいようひかりが、まばゆく、かおうえうつるようながしました。
「まあ、おさまが、すいてえるだ。なんという、うすいりっぱな、はねのようなこうもりだろう。」と、ためいきをもらしました。
「どら、わたしにもしてくんなせい。」といって、むらむすめたちはがさを、たがいにうばいました。
そのうちに、一人ひとりむすめは、すこしでもなが自分じぶんがさしていたいとおもって、がさをさしながら、あちらへげてゆきました。
「なんだずるい。自分じぶんばかりさして、おれにもしてくんなせい。」といって、一人ひとりむすめは、そのあといかけました。
げたむすめは、山道やまみちがさをさしてけてゆきました。そのあとをむすめたちは、っていったのです。
きれいながさは、えだや、うばいのためにかぶなどにあたって、やぶれました。むらむすめたちは、はじめてたいへんなことをしてしまったとおどろいて、みみとおむすめのところへきて、あやまりました。
彼女かのじょは、せっかくってきた大事だいじがさのやぶれてしまったのをて、ただぼんやりとしてしまいました。うつくしいがさがやぶれると、もうむらむすめたちは、用事ようじがないといわぬばかりに、どこかへってしまいました。
たとこばかりきれいでも、あんなかみようなものが、なんのやくにたとうかさ。」と、むらむすめはあざわらったものもあります。
みみとおむすめは、きゅうにさびしくなりました。しかし、びっこのむすめは、むかしもいまも、やさしいこころをもっていて、すこしもわりはありませんでした。
びっこのむすめは、いえにいて、百姓ひゃくしょうをしていましたが、ひまをみては、みみとおむすめのところへたずねてまいりました。そして、彼女かのじょから都会とかいはなしをきくのをたのしみにしたのであります。
「ああ、わたしは、いつ東京とうきょうへいって、そのにぎやかな光景こうけいられるだろう?」と、びっこのむすめは、ひとりでためいきをもらしたのでした。
そのうちに、日数ひかずがたって、みみとおむすめは、また東京とうきょうかえらなければならなかったのです。
わたしは、また明日みょうにち東京とうきょうつことになりました。」と、びっこのむすめのところにきて、いとまごいをげたのであります。
「こんどは、いつ、二人ふたりが、あわれようか……。」と、びっこのむすめは、わかれをかなしみました。ついにわかれるとなりました。びっこのむすめみみとおむすめむらのはずれまでおくってゆきました。
「どうぞ、お達者たっしゃらしてください。このがさは、あなたにいてゆきます。」といって、みみとおむすめは、がさをかたみに、びっこのむすめあたえました。
二人ふたりは、そこでかなしいわかれをしました。びっこのむすめは、ひとり山道やまみちあるいてかえります途中とちゅうみちばたのいしうえこしをかけてやすみました。そして、ふたたびみやこ旅立たびだっていったともだちのことをおもしながら、うつくしいがさをひらいてながめていました。
たちまち、青葉あおばうえ波立なみだっていました山風やまかぜおそってきて、このがさをさらってゆきました。びっこのむすめはいっしょうけんめいであとをいかけましたが、とうとうがさは、ふかたになかちてえなくなりました。
しかし不思議ふしぎなことに、そのあくるとしからこのやまには、うつくしい更紗模様さらさもようのついたちょうが、たくさんたにからてきました。
むらむすめたちは、みんなそのちょうをて、いつか、みみとおむすめがさしてかえった、がさをおもさないものはなかったのです。
また、それから幾年いくねんにもなりますが、二みみとおむすめは、ふるさとへかえってこないのです。
 

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